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札幌市民交流プラザ

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札幌文化芸術交流センター SCARTS

本日は開館日です

開館時間 9:00~22:00

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「アートセンターミーティング -地域の交流拠点を考える-」レポート

目次

レポート2024年12月9日(月)

「アートセンターミーティング -地域の交流拠点を考える-」レポート

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札幌文化芸術交流センター SCARTSでは、令和4年度よりアートセンターについて考えるオープンミーティングを行っており、有識者や他都市のアートセンター職員らとその役割や可能性について議論してきました。

今回は、市民交流プラザが札幌の多様な文化芸術活動の中心的な拠点となるために、SCARTSに隣接する図書・情報館と連携して「地域の交流拠点としてのあり方」を探るオープンミーティングを開催しました。
本稿は2024年10月4日に行われたトークイベント内容をダイジェスト版として編集したものです。

開催概要
2024年10月4日(金)18:30~20:30
会場:札幌市図書・情報館1Fサロン

登壇者
太田博子(八戸ブックセンター 企画運営専門員)
岡本 周(せんとぴゅあ 学芸員)
小篠隆生(一般社団法人新渡戸遠友リビングラボ 理事長)
吉本光宏(合同会社文化コモンズ研究所 代表)
渡辺由布子(札幌市図書・情報館 司書)
松本桜子(札幌文化芸術交流センター SCARTS 事業係長)

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図書館や書籍を扱う施設と共に アートセンターの可能性

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松本桜子(以下、松本):本日はPLAZA FESTIVAL 2024「アートセンターミーティング -地域の交流拠点を考える-」にお越しいただき、ありがとうございます。本日モデレーターを務めます、札幌文化芸術交流センター SCARTS事業係長の松本桜子と申します。よろしくお願いします。

SCARTSではこれまで、アートセンターの役割や可能性を多角的な視点で考察するために、有識者や他都市のアートセンターの皆さんと共に色々な事例を持ち寄り、ディスカッションを行うオープンミーティングを開催してまいりました。3回目となる今回は、本日開幕したPLAZA FESTIVAL 2024の一環として、札幌市図書・情報館とSCARTSの場所と機能を入れ替えてイベントをやってみようという試みの一つとして、地域の交流拠点について考えるアートセンターミーティングを開催いたします。

ゲストには、図書館をはじめ、書籍を扱う複合文化施設の方々をお招きしました。施設の垣根を超えた取り組みなどを伺いながら、地域の交流拠点のあり方、SCARTSのアートセンターとしての可能性を一緒に考えていけたらと思います。

SCARTSは、複合文化施設・札幌市民交流プラザの一部として、2018年10月7日に誕生した公立のアートセンターです。トークイベントやワークショップ、さまざまな分野と連携した事業や展示など、文化芸術の普及・発信、にぎわい創出につながるようなイベントのほか、企画公募事業、助成金の交付、相談サービスといった市民の文化芸術活動をサポートする事業に加え、施設の貸し出しなども行っています。

過去2回のオープンミーティングでも話してきましたが、アートセンターは、美術館や劇場などと違って定義が難しく、「どういう場所か分かりづらい」と言われることが多い施設です。

そうした中、公立文化施設のアートセンターであるSCARTSの役割は何だろうと考えた時、さまざまな人や組織と協働・連携しながら、創造・発信、鑑賞体験の場を創出すること、加えて、中間支援機能を活かした市民サポートの場所として、ひと、もの、ことを有機的につなげながら、市民活動を後押しするような地域の交流拠点となっていくことが、SCARTSというアートセンターの形であり、担うべき役割ではないかと考えています。

これをふまえ、本日、アートセンターをはじめ、地域の複合文化施設が担う役割や機能について考えるにあたり、ご登壇いただく皆さまをご紹介します。

札幌市図書・情報館 司書の渡辺由布子さん、一般社団法人新渡戸遠友リビングラボ 理事長の小篠隆生さん、東川町せんとぴゅあ 学芸員の岡本周さん、八戸ブックセンター 企画運営専門員の太田博子さん、合同会社文化コモンズ研究所 代表の吉本光宏さんです。まずは札幌市図書・情報館の渡辺さん、施設や取り組みの紹介をお願いします。

WORK、LIFE、ARTに特化 札幌市図書・情報館の独自性

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渡辺由布子(以下、渡辺):札幌市図書・情報館の渡辺です。当館のコンセプトは、ビジネスパーソンをターゲットにした課題解決型図書館です。既存の図書館像とは異なる、滞在型の図書館となっています。

コンセプトに基づく蔵書構成は、「WORK-仕事に役立つ-」「LIFE-くらしを助ける-」「ART-文化芸術に触れるー」です。「LIFE」は、プライベートで悩みがあると仕事にも集中できないということから設定されました。「ART」は、同じ建物の4階にある札幌文化芸術劇場 hitaru、SCARTSとの連携を図るため、バレエや演劇、文化芸術に関する本などを収集しています。

通常の図書館だと、日本十進分類表(NDC※1)に基づいて本を並べますが、当館では、私たち司書が立てたオリジナルテーマに沿って本を並べ、棚づくりをしています。たとえば、語り掛けるような言葉を使ってテーマの文章を考えるなど、「あれもこれも」と手が伸びるような棚づくりを日々心掛けています。

当館は、本の貸出はしていません。いつでも最新の情報を提供し、全ての本をご覧いただけるようにしたいという理由からです。

滞在型を意識した空間づくりのため、パソコンや読書などの個人作業ができるワーキングエリアやリーディングルームのほか、複数人での打合わせに適したグループエリア、大人数に対応できるミーティングルーム、ゆったり座れる自由席のソファなどを用意しています。

このほか、通常の図書館ユーザーではない人たちへのアプローチとして、さまざまなイベントを開催しています。

2023年度の開催数は約30で、その大半は自分たちで企画しました。たとえば、札幌にある百貨店の広報担当者をお招きしたトーク「やっぱり百貨店が好き!」や、札幌演劇シーズン※2 に参加する劇団の代表者がクロストークを行う「図書と演劇の対話」などです。

2024年度には、フリーランスの木こりの方を招いたセミナーを行い、人気でした。また、移動式本屋を開業した方を招いたセミナーや簡単なオフィスヨガを紹介する企画、廃棄木材を使ったオーナメントづくりを体験できるワークショップなども行いました。11月にはクラフトビールの魅力に迫るセミナーを予定しています。

イベントの際は、必ず展示も作成します。当館のオリジナル企画のほか、hitaruやSCARTSの催しに合わせた展示も多いです。たとえば、hitaruでバレエ「アラジン」、オペラ「蝶々夫人」が上演された時には、関連本を並べ、当館に立ち寄ってもらうことで、さらに公演が楽しめるような工夫を図りました。

札幌の他施設や団体と連携した展示も行います。札幌演劇シーズンの時には、各演劇作品の脚本を提供いただき、選書した本と共に並べました。また、能に関するイベントの展示では、野立傘をお借りして展示コーナーに飾ったこともあります。NoMaps※3 やSapporo City Jazz※4 とも毎年連携しています。

最後に、来館者数についてです。開館直後は非常に多かったのですが、コロナに見舞われた2020年からは、滞在型ゆえにどうしても開館できず、またイベントの制限もあり、非常に苦しい時期が続きました。少しずつ回復し、今年度の来館者数は90万人を見込んでいます。それでも、当館を知らない方、利用したことがないという方はまだいらっしゃると思うので、必要としている方に届くようこれからも頑張りたいと思っています。

松本:ありがとうございます。続いて、せんとぴゅあの小篠さん、岡本さん、よろしくお願いします。

※1 0~9の数字を用いて内容を分類し、区分を細分化する図書の分類体系。本背表紙ラベルの3ケタの番号がそれに当たる。
※2 2012年に始まった、札幌市内あちこちの劇場で1カ月半(ほぼ)毎日演劇を観ることが出来る演劇フェスティバル。2024年度にリニューアルし、夏・冬の2会期から、夏の1会期となった。
※3 2016年に始まった、北海道を舞台に、民間企業・官公庁・教育機関などが連携して新しい価値を生み出そうとする大きな枠組み。クリエイティブな発想や技術によって次の社会・未来を創ろうとする人向けの交流の場を設け、5つのプログラムを軸に年100以上のコンテンツを展開する。
※4 2007年に始まった都市型ジャズフェスティバル。2018年からライブのメイン会場を札幌文化芸術劇場 hitaruに移し、年間通じて多彩な事業を展開。2024年は7月13日~12月10日をフェスティバル期間として開催した。

旧校舎が開かれた空間に 東川町 せんとぴゅあの成り立ち

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小篠隆生(以下、小篠):「文化によるまちづくりの実践-東川町せんとぴゅあによるコミュニティHUBの創造-」というタイトルで、東川町が繰り広げてきた文化によるまちづくりの話をします。私は15年ほど前から、東川町のまちづくり計画に携わってきました。

岡本周(以下、岡本):私は、せんとぴゅあ内で「織田コレクション」を活用した展示計画を担当しています。

小篠:東川町は、旭川市から車で20分ほどの場所にあり、人口約8千500~600人で推移している地方都市です。その町にある東川小学校を移転することになり、私は、小学校改築の設計から空いた小学校校舎の活用計画の提案・設計、それらの運営計画の立案などをお手伝いしています。
そこで、東川小の旧校舎を地域コミュニティの拠点とするための考えをまとめました。中心市街地に対し、公共施設がどう寄与するかを提示しながら、それらを再配置し、まちなかに歩行者の回遊型ネットワークを形成しようと考えたわけです。東川小学校の新校舎は700m北側に移転改築したのですが、旧校舎の立っていた敷地には、旧校舎をリノベーションし、さらに校庭部分に平屋の建物を新築して、旧校庭は芝生広場にして、地域コミュニティの拠点とするべく、計画しました。…この計画を全部話すと3時間はかかるので、ここで端折らせていただきます(笑)。

さて、1961年に建設された築57年になる旧東川小をリノベーションして整備した部分を「せんとぴゅあⅠ」と呼びます。そもそも旧東川小の歴史は、今から125年前、1899年の東川尋常小学校の開校にまでさかのぼります。ですから、東川町民のほとんどが、この東川小を卒業しているわけです。町民にゆかりの深い建物を、何を基準に残し、どう変えるのかが課題でした。

せんとぴゅあⅠとなった旧校舎は2階建てです。大きく手を入れた1階には、元家庭科室を活用したコミュニティカフェや2つのギャラリー、地域の人が集えるラウンジなどを設けました。2階には公立の日本語学校としては全国で初めて配置された「東川町立東川日本語学校」の教室があります。東側の1、2階は宿泊棟として、日本語学校の留学生の宿舎などとして使われます。

一方、旧東川小校庭の西側に新築した平屋建ての建物を、「せんとぴゅあⅡ」と呼びます。ここには、旧文化交流館に入っていた図書機能を拡充し、多数の書籍を収蔵しています。
せんとぴゅあⅠとⅡは渡り廊下で一体化しており、2つの建物をつなぐ形で、元校庭である芝生の広場があります。新しくなった学校的空間は、地域の商店街や住宅と連携する、開かれた施設に生まれ変わりました。

せんとぴゅあは、来館者に予想もしなかった新しい発見や創造の体験をもたらすことを目指しています。
そのため、7万5千冊の図書を収蔵しながら、わざと公立図書館とはしていません。図書機能はあるけど図書館ではない。美術館でも博物館でもない。ということは、さまざまな機能が融合する施設といえるわけで、そのための空間構成を設計しました。

せんとぴゅあは運営も特徴的でして、課の垣根を外した枠組みで企画を考えようという運営体制づくりをしています。建物全体を一つの部署で運営しているわけです。それによって、さまざまな相乗効果が生まれています。詳しくは後ほど説明できればと思います。

本と人をつなぐ“接着剤” せんとぴゅあⅡ「ほんの森」

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岡本:私からは、せんとぴゅあ内の活動についてお話します。せんとぴゅあⅠである旧校舎の1階、2つの教室を連結させて出来たギャラリー空間では、「織田コレクション」の展示や、作家を招へいした展覧会を行っています。また、地元NPO法人が運営するコミュニティカフェもあり、日替わり定食などを提供。町民やせんとぴゅあ職員が利用しています。

私が主に担当する「織田コレクション」とは、東海大学名誉教授の織田憲嗣氏が長年かけて集積した、世界の名作日用品物です。コレクション数は膨大で、その希少性が世界的にも高く評価されています。東川町では2016年に文化財登録を行い、まちの“宝物”として保管・管理し、せんとぴゅあⅠ・Ⅱで常設展示しています。

「織田コレクション」を使ったアウトリーチ活動として、デザインスクールがあります。これは、織田氏がコーディネーターを務め、「丁寧な暮らし」をモットーに約3カ月に1回、開催しています。
また、日本国内外の施設からの要請で、「織田コレクション」を貸し出すこともあります。最近では、東京・パナソニック汐留美術館で行われた「ポール・ケアホルム展」に椅子50脚が展示されました。東川町のことを知ってもらう機会にもなりますし、外部から評価をもらうことで、町民たちに自分の街を誇りに思ってもらえればと考えています。

次に、せんとぴゅあⅡの核といえる「ほんの森」コーナーについて紹介します。
「ほんの森」は、最大7万5千冊を収蔵できる図書スペースです。「ほんの森」の活動によって、本が身近なものになり、本と人、人と人とのつながりを生む“接着剤”となっています。本に関するさまざまな仕掛けを司書や「ほんの森」スタッフが行うことで、せんとぴゅあⅡは、ただ本を読んで帰る場所ではなく、「ここに来れば何かある」という期待感を持って来てもらえる場所になっています。

せんとぴゅあでは貸館等も行っています。とはいえ、何でもやるのではなく、「町民の幸福度につながるか」を大切な基準としています。
たとえば、クリスマスマーケット。東川町には町立の日本語学校があるため、外国人の方も常に多くいて、町民の方も慣れているので、色々な文化を受け入れる体制が出来ています。いわば、「自分たちの価値観だけが正解ではない」と思う人たちが、たくさんいるわけです。

今までご紹介したようなさまざまな案件を担うせんとぴゅあですが、施設単体で成り立っているのではなく、東川町のまちづくり戦略に向けた総合・連関的な施策のもと、色々な横とのつながりの中で成り立っています。

松本:ありがとうございます。続いて、八戸ブックセンターの太田さん、お願いします。 

「本のまち八戸」の拠点として 青森 八戸ブックセンターの10年

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太田博子(以下、太田):はじめまして。私は八戸市からやってきました。八戸市は青森県にある小さな町で、人口は札幌の約10分の1。イカやサバが豊富に水揚げされる全国有数の水産都市であり、北東北を代表する工業・物流の拠点都市でもあります。函館から新幹線で、苫小牧からフェリーでもスムーズに行けます。

八戸市は「文化でまちづくり」をビジョンに掲げ、私が所属する八戸ブックセンターをはじめ、八戸ポータルミュージアムはっち、八戸まちなか広場マチニワ、八戸市美術館と、機能の異なる4つの公共施設が市内中心部にあります。
まずは、各施設を簡単に説明します。
最初の2011年に出来たのが、八戸ポータルミュージアムはっちです。文化観光交流施設として作られました。1~3階には八戸市を紹介する観光展示やカフェ、ショップ、5階には誰でも使えるワークステーションがあり、コピー機や大型印刷機などを備えています。アーティストが滞在できるレジデンス、芸術活動や市民活動をサポートする各種ギャラリー、スタジオ、小さなシアターも入っています。

八戸まちなか広場マチニワは、はっちと八戸ブックセンターの間に位置する、大きな広場です。まちなかの「庭」をコンセプトにした空間で、にぎわい創出や市民の交流促進を目的としています。ガラス屋根が付いているので、天候に左右されずにイベントできるのが特徴です。

八戸市美術館は2021年、もともとあった美術館をリニューアルし、新しいタイプの美術館としてオープンしました。
コンセプトは「出会いと学びのアートファーム」。美術品をただ展示して見せるのとは違い、人が活動する空間を大きく確保したのが特徴です。たとえば、入場して展示室に行く前に必ず通る「ジャイアントルーム」。ここは、市民が集える大きな空間です。また、「アートファーマー」と呼ばれるボランティアの人たちが主体的に関わることも特徴です。皆で作り上げる美術館といえます。

そうした中で、八戸ブックセンターがなぜ出来たのか説明します。
まず、2014年に「本のまち八戸」事業が始まりました。これは、図書館や民間書店、教育機関などと連携を図りながら、「本でまちを盛り上げよう」という八戸市の取り組みです。具体的には、赤ちゃんに本をプレゼントするブックスタート事業、小学生にクーポンを差し上げて好きな本を買ってもらうマイブック推進事業、さらに、実はそれまで学校の図書館に司書がいなかったので、そうした体制を支援する学校図書館支援事業が始まりました。
そうして2016年12月、「本のまち八戸」の拠点施設として開設されたのが、八戸ブックセンターです。

施設概要は、在庫数は約1万冊、面積は約315平方メートル。市街地にある民間施設の1階に、テナントとして入居しています。
八戸市が直営する、書店機能を持ち合わせた公共施設という全国でも例がない施設なので、今でも全国から視察や見学者が訪れます。提案・編集型の陳列が特徴で、「本との偶然の出会い」を提供し、皆さんに本を好きになってもらうきっかけとなる企画事業を行っています。

八戸ブックセンターの基本方針は、「本を読む人をふやす」「本を書く人をふやす」「本でまちを盛り上げる」の3つです。2つ目の「本を書く人をふやす」に関しては、執筆専用部屋を用意したり、執筆・出版相談窓口を設けたり、ワークショップを行ったりしています。
というわけで、当センターはアートセンターや図書館とは少し違う立ち位置ですけれど、本日は「連携」「交流」というキーワードから何かお話できればと思っています。

松本:ありがとうございます。3施設のお話を受けて、吉本さんいかがですか。

ライブラリー=図書館は誤訳? 海外にみる図書館の機能

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吉本光宏(以下、吉本):アートセンターミーティングは今年3回目で、私は初回から登壇させていただいていますが、今回の対象となる図書館や書籍を扱う施設については、実はそれほど詳しくありません。まずは、3館の話で印象的な言葉を拾い出してみました。札幌市図書・情報館は「本の貸出はしていません」「オリジナルテーマによる棚づくり」…これはつまり、図書館法に乗っ取っていないということですか?

渡辺:いえ、図書館の多くは基本的にNDCで本を並べますが、本の並べ方に対する法律は特にないんです。ただ、本をより手に取ってもらえる工夫として、オリジナルテーマを立てる当館のような図書館は珍しいと思います。とはいえ、八戸ブックセンターさんもキャッチーな見出しを立てており、書店さんからすると、そこまで珍しくはないとは思いますが。

吉本:なるほど。せんとぴゅあは「『ほんの森』の活動が、来館者の接着剤になる」「図書館でも、美術館でも、博物館でもない」、八戸ブックセンターは「八戸市直営の書店機能を持った文化施設」「本でまちを盛り上げる」と、おっしゃっていたのが印象に残りました。
つまり、3館とも、図書館的なものではあるけれど、図書館ではなく、新しい形を追求しているわけです。こういう言葉が適切か分かりませんけれど、図書館もどきみたいな存在だと感じました。「もどき」を色々なものに付けていくと、ひょっとしたら、既存概念を変えていけるのではないでしょうか。
それから、3館に共通するのは、図書をフックにして、市民の知的欲求に応えるのはもちろん、新しい活動を誘発し、市民生活の質的向上を図ろうとされています。

実は、一度だけ、図書館に関する国際リサーチをやりました。
10年以上前、文化庁の依頼で、紙ベースではなく、音源や動画記録などの音楽資料について、世界の国立図書館はどう扱っているかを調べたんです。その時、僕が思った最大の結論は、「library(ライブラリー)を図書館と訳したのは、間違いだったのではないか」ということでした。

具体例をいくつかお話します。
イギリス・ロンドンにある大英図書館には、サウンドアーカイブ部門があり、古いラジオの音源などを採集しています。驚いたのは、劇団ロイヤル・シェークスピア・カンパニーや国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターの公演を、なんと1963年から、ずっと録音し続けていること! おそらく、動画記録が今ほど簡単ではなかったので、音源になったのだと思いますけれど、「昔の、あの舞台の音」、つまり当時の公演音源を聞けるんです。

アメリカ・ワシントンDCにある米国議会図書館には、録音資料センターがあり、さまざまな音源や映像の視聴覚資料を所蔵しています。それらをすべてデジタル化し、ワシントンDCから約100キロ離れたバージニア州にある冷戦時代の元核シェルターに移して保存しようという取り組みが進められています。

フランス国立図書館にも音楽部門があり、公共ラジオ放送局ラジオ・フランスの音源をすべて持っています。そして、昔の演奏を発掘し、CD化しています。

これらはどれも公立の図書館が取り組んでいる、ある種のアーカイブ事例です。図書館の所蔵対象が図書だけでなく、音源や映像などの知的財産全般に及んでいることに僕は驚きました。一方、日本では、アーカイブの意識は希薄と言わざるを得ません。

本日登壇された3つの施設はそれほど関係ないかもしれませんが、札幌市民交流プラザにはhitaruがあります。劇場の活動に併せて、SCARTSが舞台芸術に関する動画や音源などのライブラリー機能を持つことも考えられるのではないかと思いました。

また約2年前、フィンランド・ヘルシンキの中央図書館を見学する機会がありました。Helsinki Central Library(ヘルシンキ・セントラル・ライブラリー)「Oodi(オーディ)」です。

コンセプトは、「図書はもちろん貸し出します。けれど、図書以外に、市民生活をより良くするものなら、何でも貸します」。3階建ての建物では、さまざまなイベントを開催し、フィンランド語を学ぶこともできます。たとえば、こども向けのエリアに行くと、読み聞かせする部屋や物語の壁があります。
最も驚いたのは、Urban Workshop(アーバンワークショップ)というDIYカルチャースペースです。3Dプリンターやレーザーカッターなど、高価で一般の市民には手の届かない専門的な工具や機器が、誰でも自由に使えます。また、録音スタジオもあり、ゲーム機など、とにかく色々なものを貸してくれるのです。
以上、私が知る海外の事例を紹介させていただきました。

地域の交流拠点として 「交流」対象をどこに置くか?

松本:ここからディスカッションに入ります。「地域の交流拠点を考える」というテーマの「交流」に着目すると、SCARTSの場合、「交流」「にぎわい創出」をミッションとして掲げ、広く市民を対象としています。とはいえ、SCARTSの入る札幌市民交流プラザには、札幌文化芸術劇場 hitaruや札幌市図書・情報館もあり、それぞれ客層が異なるため、対象を絞るのが難しいといえます。

札幌の都市の特徴としても、国際交流、インバウンドの観光客も対象になり得るというところで、事業を作る時に、種類や幅を広くもたせないと、全ての人に対して事業を提供できません。とはいえ、マンパワーや予算の問題などから、すべてを叶えるのは難しいのが現状です。そこでまずは、各施設の「交流」の対象についてお聞きしたいです。札幌市図書・情報館の渡辺さん、いかがでしょう。

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渡辺:札幌市図書・情報館の予約席の利用は、図書館の貸出券を持っている方になります。ですから、どうしてもカードを作れる方、すなわち、札幌市内に住んでいるか、市内に通勤・通学する方に限られてしまうのですが…。日頃カウンターで対応していると、市外や道外の方の利用も多いと感じます。もちろん、そういった方々も座席は使えますし、イベントへの参加制限は特に設けていません。厳密に限定はしていませんが、ビジネス支援をコンセプトにしているので、働く層が対象の軸の一つにはなっていると思います。

松本:ありがとうございます。せんとぴゅあの小篠さん、いかがでしょうか。

小篠:特定の層を対象には全くしていません。老若男女、町内の方はもちろん、町外の方も多く利用されます。というのも、せんとぴゅあはまちの中心部にありますから、観光客が必ず通るんです。と同時に、こども達が放課後に来るような、普段使いの利用も多く、実にさまざまな人でにぎわっています。
ですから、イベントの対象もさまざまです。公共図書館ではないので、図書館営業をしながらイベントを行うことも、自分たちの裁量で出来るんです。さまざまな掛け合わせ、チャレンジが出来ています。

松本:ありがとうございます。八戸ブックセンターの太田さん、いかがでしょうか。

太田:そもそも、なぜ八戸市が本屋をやるの?という理由につながるご質問だと思います。
皆さんご承知のように、全国的に本屋が無くなる中、八戸市も、中心街にあった本屋が閉店し、書店数が激減しています。今ある本屋が営業を続けるには、売れ筋の本をどんどん売らないといけない。そういう事情がある中、地方都市だと、どうしても市民が本や書店文化に触れる機会が減ってしまうんですね。一方で、「あまり売れないけれど、良い本」も、世の中にはたくさんあって。そういう本に触れる機会を市民に提供したいという思いから、民間書店の補完という形で出来たのが、八戸ブックセンターなんです。

対象は、やはり八戸市民です。でも開業してみると、珍しい施設ということで、全国各地から本好きの方が来てくださったり、観光客の方がふらっと立ち寄ったり。良い効果を感じています。

松本:八戸ブックセンターでは、市内の書店や飲食店、出版社と連携したイベントもされています。そうした取り組みについて、詳しくお聞かせいただけますか。

太田:つい先日、9月28~29日に「本のまち八戸ブックフェス」という、年に一度のイベントを終えたばかりです。これは、八戸ブックセンター、八戸ポータルミュージアムはっち、八戸まちなか広場マチニワの3施設を貸し切り、市民が古本を売る「一箱古本市」や市内書店の出展ブース、県外の出版社の出展ブースなど、本に関する多彩な企画を展開する一大イベントです。今年は初めて2日間開催となり、市内の飲食店も出店し、地元DJも来て、歩行者天国も同時開催されたので、お祭りのようににぎわいました。「ご飯を食べにきた」という人も面白い本に出会えるなど、間口が広がるイベントになっています。準備が大変で、私たちはヘロヘロになるのですけれど(笑)。

松本:東川町の場合、「家具」「大雪山」「写真の町」という要素があり、その3要素をつなぐ役割としてせんとぴゅあⅡの「ほんの森」が出来たと伺いました。せんとぴゅあを訪れた方が「新しい偶然の出会いになった」というようなエピソードがあれば、お聞かせいただけますか。

岡本:せんとぴゅあでは、確かに「写真文化」「家具デザイン文化」「大雪山文化」と色々な要素があり、さらに、図書機能、コミュニティスペース、日本語学校と盛りだくさん。これだけたくさんのことをやっていて、新しいことに出会わないわけがない!と、思ってしまうかもしれません(笑)。
色々なものがあるからこそ出来ることも、もちろんあります。たとえば、家具のまちであることから、木工業者に椅子を作ってもらえる。写真のまちであるから、写真家に撮影をお願い出来る。実際に、木工業者が作った椅子に、町民が座り、プロの写真家が撮影するというイベントを行ったことがあります。そうした要素を組み合わせられたのは、東川町ならではだと思います。

「にぎわいを創出せよ」 ミッションを果たすために

松本:ここからは事業について、もう少し深く聞いていきたいと思います。地域の交流拠点になる上で重要な観点が、「地域のにぎわい創出」です。SCARTSのように都市中心部に位置する施設は、にぎわいを創出する役割を必然的に担っていると言えます。そのミッションを果たすため、たとえばSCARTSでは、自主事業だけではなく、NoMaps、さっぽろアートステージ※5、札幌国際芸術祭(SIAF※6)といった既存事業と連携を図ることで、ここを拠点にイベントが広がり、にぎわい創出、交流の場を生み出そうとしています。

ということで、皆さんの施設では、そもそも行政から「にぎわいを創出せよ」というお題はあるのでしょうか? …答えづらいかもしれませんが、札幌市図書・情報館の渡辺さん、いかがでしょう。

渡辺:評価される時に、来館者数などの数字が重視される面はあります。あと、図書館の役割として重要なのは、ハブ機能でしょうか。私たちは本の専門ですけれど、そうではない要望がきたときに適任者につなぐことも大事だと思っていて。松本さんたちSCARTSも同じではないでしょうか。

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太田:「にぎわいを創出せよ」ってすごいミッションだと思いますが、絶対にあると思います。八戸市にも、アートセンターではないのですが、異なる機能を持つ施設が街中に点在するのは、回遊性を高める、人を分散させるという狙いがあるわけです。特に、八戸ポータルミュージアムはっちは観光文化施設なので、街中を巡ってもらえるようなスポットの紹介をしています。美術館の前にキッチンカーが来ることもあります。自分たちの企画ではあるけれど、他の施設や、市民のみなさんとつながって、“にぎわせる”ことを目指しています。

小篠:東川町のエピソードで一つ、にぎわいを作るときのネットワークのつくり方について紹介したいです。
彫刻家・安田侃氏の展覧会をやったことがありました。せんとぴゅあ内で展示する作品もありましたが、安田氏の彫刻は、東川町の公共施設の中にいくつか入っていたので、それらを巡ってもらうことにしたのです。そこでマップを作成し、まちなかを巡ってもらうような仕組みをせんとぴゅあのキュレーターが考え、展示計画を作ったことがありました。

松本:SCARTSも、札幌国際芸術祭2024の時には、ここを自然公園の「ビジターセンター」に見立て、市内すべての会場をつなぐインフォメーションの役割を担いました。中心地にあるからこそ、そうした仕掛けが可能となるわけで、確かに役割の一つなのだと思います。

※5 2005年に始まった秋の芸術祭。美術や舞台、音楽など、札幌のまちが約1カ月間アートに彩られる。20周年を迎えた2024年度は、札幌市民交流プラザなどを会場に11月1日~30日に開催された。
※6 2014年に始まった、3年に一度、札幌で世界の最新アート作品に出合える特別なアートイベント。2024年は初の冬開催となり、札幌市内6会場を中心に多彩な展覧会やプロジェクトを展開した。

せんとぴゅあ、八戸ブックセンターが語る 連携のメリットや楽しさ

松本:さて、そうした中で大事になってくるのが「連携」です。札幌市民交流プラザにはSCARTS、札幌市図書・情報館、hitaruが共存していますが、実はその3施設が連携するのも至難の業なのです。今回はPLAZA FESTIVALという良い機会に、札幌市図書・情報館と連携して、今回のイベントができています。また、SCARTSではほかにも、札幌市内の色々な美術館、ホール、団体など、さまざまなところと連携しながら事業を行っています。
小篠さん、せんとぴゅあでは「縦割りが無かったので連携の相乗効果が生まれた」というお話がありましたが、詳しく伺えますか。

小篠:東川町には以前、せんとぴゅあの取り組みを所掌していた課が複数ありました。たとえば、せんとぴゅあという施設を作るために作られた文化レクリエーション課。また、家具を成果品として捉えると、産業振興課も関わってきます。というように、さまざまな役割や目的を所掌する課を一堂に集めた企画会議を、せんとぴゅあ開業の1年前からスタートさせ、3年ほど毎月実施していました。この企画会議を行うことで、課の目的は何なのか、お互いに何をしなければならないのかなどの意識が共有できてきました。そうして最終的にまとまった一つのテーマが、「丁寧な暮らし」です。
「丁寧な暮らしを、東川町の町民はやっていきましょう」と訴えかけるようなイベントや事業を推進することになり、現在は文化交流課が仕切っています。ですから、機能はたくさんあるのですが、連携事業や全体イベントがまとまりやすい。2018年の開館から6年くらい経ちますけれど、そのような状況です。

岡本:今の話を補足すると、行政だけでは分からないこともあるので、小篠さんたち専門家にアドバイザーとして参加してもらい、事業報告や今後の方針について話す場を今も設けています。色々な部署から多彩な人材が集結し、多方向からのアイデアや課題が集まるのと同時に、せんとぴゅあ運営に関する町全体の意思統一を図る場になっています。

松本:なるほど。続いて、外部との連携について伺います。八戸ブックセンターは民間の書店や他の図書館と連携していますが、そのメリットや難しさについて教えてください。

太田:書店同士のつながりは、私たちが書店だから出来たのだと思います。図書館だと、民間書店とのつながりはなかなか生まれません。「本のまち八戸」として「本でまちづくりする」という目標があるからこそ、一般的にはライバル同士の民間書店がフェスで集ったり、一緒に会議に参加したりすることが出来ています。
飲食店など外部の人との連携に関しては、「町から本屋をなくしたくない」という気持ちがあるから連携しやすいのかもしれません。八戸のまち全体を“大きい本屋”と捉えるのは、少し違うかもしれませんが(笑)、とにかく同じ目的、共通した思いがあると、つながりやすいと思います。

松本:はっちや美術館など、他の文化施設と上手く連携するコツはありますか。

太田:そもそも本は、連携しやすい媒体だと思います。教育機関も必ず本を使いますし、アーティストも図録を出したりするので、美術館とも連携しやすい。本はどんなジャンルにもコミットしやすい媒体だと感じます。一方で、縦割りの難しさは…たぶん、どの施設でもあって。それぞれのルールもあるし、「あちゃ~(汗)」ということも時にはありますが(笑)、ともあれ、連携は楽しいです。自分たちでは出来なかったことが出来たりしますから。たとえば、八戸市外の美術館の方が、本を扱う施設ということで八戸ブックセンターを訪れるなど、私たちも想像していなかった出会いがあります。そうした出会い1つ1つを、上手くつないでいけたらと思っています。

地道な活動の“種”が花開くとき 「偶然の出会い」をどう起こすか

松本:今までのお話に関して、吉本さん、いかがですか。

吉本:実は「交流」「にぎわい」というキーワードは、複合文化施設を作る時の役所のお題目なんです。でも、その前に、松本さんがおっしゃった「出会い」が、僕は重要な気がします。

せんとぴゅあや八戸ブックセンターの話を聞くと、今まで出会ったことがないような人たちが出会う仕掛け、空間設計、場の作り方があり、それに上乗せするような事業がある。それはまさに、アートセンターの大切な取り組みの一つです。各施設は、そういう仕組みを非常に工夫されていますし、それが今回のアートセンターミーティングにとって、大きなヒントになるのではないかと感じました。

それからもう一つ。東川町と八戸市に共通して感じたことは、まちの規模についてです。特に八戸市の場合、八戸ポータルミュージアムはっちが出来たことで、シャッターの閉まっていた商店街に店がオープンするなど、波及効果があったと聞きました。
一方、東川町には、随分前ですが僕も足を運んだことがあります。驚いたのは、当時の松岡市郎町長による「写真の町」宣言。こどもが生まれると素晴らしい写真を撮ってプレゼントする事業など、写真をキーワードにしたまちづくりが盛んですね。写真甲子園※7 や東川町国際写真フェスティバル※8 といったイベントもあります。このように写真をテーマにまちなかに展開していくって、すごいことですよね。そういうDNAとでもいうものが、せんとぴゅあにも流れているのではないかと思いました。
施設にとどまらない面としての広がり、まちなか展開について逆に伺ってみたいのですが、いかがでしょうか。

小篠:積み上げてきた資産なんでしょうね、きっと。イベントをただ繰り返すだけなら疲弊してしまうのですが、イベントを通して培った“種”を、継いでいくことが大事なのではないでしょうか。
写真甲子園の話だと、高校生が写真を撮るので「まちをきれいにしよう」という景観意識が町民の中に芽生え、道をきれいにするような活動が始まりました。
一方、話を図書に引き戻すと、東川町国際写真フェスティバルで東川賞を決めるため、大量の資料を集めていたわけです。その中には、市販されていない写真展の図録などもありました。ところがそれらは、図書館ではなく、東川賞を預かるところが私蔵する状態だったんです。

せんとぴゅあの設計に入っていた時、こうした写真関連の資料が見つかり、「これは資産なのですべて図書化しましょう」と提案しました。現在はせんとぴゅあが収蔵し、公開しています。人口8千人規模のまちで「こんな本があるの!」と愛好家も驚くほどの貴重な資料もあります。

ちなみに、東川町に以前あった図書室にあった約2万冊の図書の多くは、子ども向けの書籍でした。まちの選書を大きく変えるきっかけとなったのも、そうした写真関連の書籍でした。それで、芸術書も選書のジャンルに入れて、特徴ある書籍が集められたことは、これも“種”というか、間接的であるにしろイベントから生まれた効果であると言えます。

太田:「本のまち八戸」は今年10年目の取り組みなので、東川町のように長い目で見なければいけないなと思います。たとえば、先ほど紹介した、八戸市の小学生全員に市内書店で使えるクーポン2千円分を夏休み前に配るという取り組み。初年度に小学1年生だった子は、今ごろ高校生になっているはず。この取り組みがどういう花を咲かせるのか、まだ私たちにも分かりません。
まちの規模の話でいえば、八戸ポータルミュージアムはっちが出来てから…というか、出来る前から、八戸市民は集まるのが好きな人たちだったのではないかと思います。八戸三社大祭※9 というお祭りが何百年も続いていますし。そういう、人が集まって何かすることを楽しむ文化を大切に育ててきたんだと感じます。

松本:「新しいひと、もの、こととの出会い」は、SCARTSを含め、各施設のキーワードになりそうです。目的を持ってその施設に来たのだけれど、偶然にも、目的以外のものやひとと出会うというのが、交流拠点の一つの役割、良いところなのではないでしょうか。そういう出会いを生み出した後に、市民の方、訪れた方たちをどうサポートしていくかも、我々のミッションの一つかもしれません。

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小篠:1つ、よろしいでしょうか。建築の立場から言わせてもらえば、「偶然の出会いをどう起こすか」は、空間面がもたらす功績も大きいんです。たとえばここSCARTSには、どちらのテリトリーにもなりうるような場所の集積がありますよね。今回のトーク会場も、札幌市図書・情報館とSCARTSの場所と機能をひっくりかえしたそうですが、それが出来るのは、どちらのテリトリーとしても使える、つまりどちらにも属しているし、属していないとも言える「余白的な場所」と呼ばれる空間が存在しているからなんです。

せんとぴゅあも、そういうつもりで作っています。どうにでもなれる場所が存在しているわけです。大抵の公共施設は「ここはこういうことをする場所だ」という風に決めて空間を作るんですけども、そうでもなく、こうでも使えるみたいな状況を計画できるのであれば、運営側にしてみれば願ったり叶ったり(笑)。色々なことが可能になるわけです。そういう場が、八戸ブックセンターにも存在しているのだろうし、SCARTSにもある。これは、建築設計のポイントと言っていいと思います。

太田:私からもひと言、付け加えさせてください。八戸ブックセンターは、「本との偶然の出会い」を意識して、本棚を作っています。売れている本をただ積み上げるのではなく、「偶然手に取った本が、いい本だった」「この本を目掛けてきたけれど、隣の本の方が面白そう」という、偶然の出会いです。札幌市図書・情報館も、本棚を工夫されていますよね。

渡辺:はい、そこはかなり意識しています。たとえば、札幌市図書・情報館1階には、「札幌と北海道の魅力発信」という棚があります。通常なら帯広、旭川など地名を出せば簡単なところを、たとえば「車なら何時間で行けるか」という表現でくくっているのは、そういう理由から。棚のテーマ作りは、オープン時から、司書の皆で何個も案を出しながら決めていきました。ちょうど昨年リニューアルがあり、全テーマの見直しを図ったところです。

太田:先ほど小篠さんが建築的工夫をおっしゃってくださいましたが、本屋、書店、図書館では、「偶然の出会い」を、本の並べ方でも創出しています。ですから、棚もしっかり見てほしいです!(笑)

松本:ありがとうございます!

※7 1994年に始まった全国高等学校写真選手権大会の本戦。全国11ブロックを勝ち抜いた優秀校が東川町に集結し、“高校写真部の全国一”を目指して競い合う。
※8 東川町が「写真の町」宣言をした1985年に始まったフォトフェスティバル。約1カ月のメイン会期中には、国際写真賞「写真の町 東川賞」の授賞式や受賞作家の作品展、シンポジウムなど多数のイベントが行われる。2024年に第40回を迎えた。
※9 7月31日~8月4日に開催される青森県八戸地方最大の祭り。古式ゆかしい神社行列と豪華絢爛な山車の競演が見もので、2016年、ユネスコ無形文化遺産に登録された。

千差万別!どう対応? 相談サポートの連携方法

松本:さて、札幌市図書・情報館ではビジネスパーソンをターゲットの一つとされ、経営支援の相談窓口を設置されています。八戸ブックセンター、せんとぴゅあも、それぞれの形で市民活動をサポートされています。
そこで次は、公的機関と連携して市民からの相談に乗るとき、お悩みの解決方法を示す時の連携のコツを…コツばかりお聞きして申し訳ないんですけれども(笑)。なぜかと言いますと、SCARTSにも相談サービスがあって、アーティストをはじめ、さまざまな方からの相談が年間130件ぐらいあるんです。そして、それらすべてが違う内容で、一つとして同じ答えを出せません。我々だけでは解決が難しいことも多く、専門知識を持つ外部の方との連携の必要性を感じているわけです。そこで、各施設のサポート体制についてお話を伺えればと思います。

渡辺:札幌市図書・情報館には、よろず支援拠点※10、日本政策金融公庫※11、法テラス※12 などの相談窓口があります。これは、ビジネス支援をうたう図書館の先例を踏襲しました。ちなみに、日本政策金融公庫の札幌支店は、道路を挟んですぐ隣のビルにあるんです。それでも、図書館に窓口があることで敷居が低くなるようです。
私たちがレファレンス(調べもの相談)を受け、「これはつないだほうがいい」となったとき、同じカウンターの中に相談窓口があるので、図書館の中でつないでいけるのはメリットといえるかもしれません。あと、コツとまで言えないかもしれませんが、相談員さんとのコミュニケーションは大事にしています。

松本:年間どのくらいの利用がありますか。

渡辺:150件くらいです。相談窓口は予約制ではなく、開設曜日をアナウンスしています。「気になってました」と、その場で申し込む利用者が多いです。

松本:結構定期的に利用があるのですね。SCARTSにも、アーティストの方からの相談で「起業したい」という時、札幌市図書・情報館を紹介することもあります。これからも連携できたらと思います。八戸ブックセンターの太田さん、いかがでしょう。

太田:八戸ブックセンターでは、「自分で本を出したい」という方の相談に乗る執筆出版相談窓口を設けています。「書きたい」という思いを持った方は非常に多くいらっしゃると感じます。自費出版という道もありますが、少しハードルが高いので、自分で作るZNE(個人で作る冊子)を紹介するなど、本づくりの敷居を下げるテクニカルなサポートも行っています。
また、図書館のレファレンス・サービスではないのですが、本に関するお困り事も寄せられます。たとえば、「こういう本を読みたい」といった相談があって当センターにない場合、市内の書店を案内したりしています。

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※10 中小企業、小規模事業所の経営上のあらゆる相談に対応する、国が全国に設置した無料の経営相談所。独立行政法人中小企業基盤整備機構(東京)が全国本部を担う。
※11 中小企業や小規模事業者向けの融資などを行う、財務省管轄の政府系金融機関。
※12 国によって設立された法的トラブル解決のための総合案内所。

「書く人をふやす」のはなぜ? 本を扱う図書館&書店への思い

松本:そろそろご来場のみなさまからの質問を紹介したいと思います。「八戸ブックセンターの『本を読む人をふやすだけでなく、書く人をふやす』という取り組みが印象的でした」という方から、なぜその取り組みが始まったのか意図を教えてほしいということです。

太田:「本を読む人をふやす」「本を書く人をふやす」「本でまちを盛り上げる」は、八戸ブックセンターが出来た時からの基本方針です。理由は、本を読む人が増えても、書く人がいないと、本は無くなってしまうから。読む人も、書く人も、どちらもサポートしたいというスタンスです。
八戸ブックセンターには、執筆する方なら誰でも使える専用ブースが設けられています。県外の方でも登録すれば使えます。作家だけではなく、グルメブログを書いている方など、色々な方が利用できるように間口を広くしています。もし、来場者の中に「書いています!」という方がいれば、ぜひ登録して使ってみてほしいなと思います!

松本:ありがとうございます。同じく八戸ブックセンターさんに、図書館や書店との連携に関するご質問です。「一般的に競合相手と言われる図書館や書店と連携がうまく出来たポイント、具体例を教えてほしい」とのことです。

太田:八戸市が「本のまち八戸」を立ち上げ、八戸ブックセンターを作ろうとしていた時から、図書館と書店どちらも大事だと考えていました。つまり、図書館で本をたくさん借りて読むのも大事だし、本屋で自分だけの1冊を見つけて所有するのも、また違った意味で非常に大切だということです。ですから私たちは、どちらもサポートしたいという気持ちで連携事業に取り組んでいます。
現在進行形の取り組みに、こども向けのおはなし会があります。八戸市立図書館で実施していたものを、リニューアル休館中は八戸ブックセンターを会場にして開催しました。お客様から好評だったことから、現在も継続して開催しています。また、他の市内図書館とも連携し、スタンプカードを全館共通で使えるようにして、各施設を巡ってもらえるような仕組みになっています。なお、八戸市立図書館は今年開館150周年を迎える歴史ある施設です。八戸ブックセンターでは、そうした図書館の歴史を、この冬、ギャラリー展示として紹介する予定です。

これは、“レファレンスあるある”かもしれませんが、「この本何度も借りたんですけれど、やっぱり欲しいので買いました」という方がいらっしゃるんです。そういう時、目当ての本が本屋にちゃんと置いてあるようにしたい。図書館に行ってほしいし、図書館で気になった本は買って欲しい。そういう流れを大事にしています。借りても、買っても、本を大切にしてほしいという気持ちで活動しています。

松本:「本のまち八戸」という取り組みをされるにあたって、参考にされた市町村や他の施設はありますか?

太田:そもそもなぜ、「本のまち八戸」が始まったかというと、八戸市の前市長・小林眞さんが、幼い頃から本好きだったのが理由の一つなんです。本を購入し、所有することの大切さを理解していた方だからこそ、「本でまちづくり」という発想が生まれたのだと思います。
とはいえ、八戸ブックセンターは前例のない施設だったので、最初のコンセプト作りや施設計画は難航しました。ですから、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さん※13 に専門家として入ってもらい、コンセプトや施設の雰囲気を考えていきました。内沼さんには開館後も5年間携わっていただいたので、やり方が見えてきたというか、流れがつかめたと思います。

※13 1980年生まれ。NUMABOOKS代表、ビールが飲める東京の新刊書店「本屋B&B」を共同経営。著書に『これからの本屋読本』『本の逆襲』など。

異動をポジティブに捉えよう 滞在型図書館は再現可能か?

松本:立ち上げの時に専門家やアドバイスできる方にきちっと入ってもらい、一緒に考えるのは大事ですね。続いて、東川町のせんとぴゅあに、運営体制に関する質問が来ています。「職員の異動や退職があってもスムーズに内部で連携できる仕組みなのですか?」。

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岡本:他の市町村に比べたら、東川町の人事異動は早いと思います。早くて1~2年、10年間同じ部署にいることはまずありません。これは、一つの部署で専門家になるよりは、色々な部署で経験を積んで、どこに行っても柔軟な考えで仕事できるように、という松岡前町長の考えからです。ですから、他の課と連携する時、その課の事情も分かります。これが、スムーズに進む要因の一つなのではと思います。

松本:異動ってマイナス要素に捉えがちなんですけれど(笑)、ポジティブな側面もあるのですね。SCARTSも札幌市芸術文化財団という公益財団法人が運営しているので、我々職員に異動はつきものです。専門的な知識が求められますが、色々な部署を経験して多角的な視点を身につけるという考え方もあるのだと勉強になりました。

小篠:プロパー(正職員)だけじゃないというのも大事な話です。専門的な知識を持つ学芸員や支援員といった方々が各部署に配置されているので、知識を受け継げる形にしておきながらプロパー職員が入れ替わっていく。新しく配置された人は、分からないことは上記の職員に聞けばいいし、色々な部署を担当するので、連携の際は相手の課がよく分かるからスムーズにいくという事情があります。

松本:せんとぴゅあには町立の日本語学校があり、職員の中にも外国人の方がいらっしゃるそうですね。彼らが果たす、連携の良いところもあるのではないでしょうか。

小篠:そうですね。彼らが自国の踊りを披露したり、料理を提供したりする、お国自慢のようなイベントがあるんですけれども、そうした企画の組み立ては外国人の支援員が担当しています。あと、すごいのは、東川町では、逐次通訳が必要な国際イベントを手軽に引き受けられること。隣町・旭川では経費面の問題などでできないことも、東川町には日本語も英語も中国語もできる人材がいるので可能です。人口8千人規模のまちとして、誇るべき点だと思います。

松本:確かに国際交流イベントは、SCARTSでもハードルが高いです。英語対応だけでも大変で、連携先を探すのも課題です。それを町内の人材が担えるというのは素晴らしいことだと思います。
さて、札幌市図書・情報館にも質問が来ています。「くつろげて、選書も素敵で、人が集まる魅力的な場所です」と書いて下さった方から、「札幌市以外でも、こういう場所を作るのは可能でしょうか?」との質問がありました。渡辺さん、いかがでしょうか。札幌市図書・情報館のような空間を再現するのに必要な要素は何だと思いますか?

渡辺:人と、お金でしょうか(笑)。実は当館も、立ち上げの時にブックディレクターの幅允孝さん※14 にアドバイスをいただきました。それで、滞在させるという目的から、硬いイスを避けるなど、空間づくりには気を配ったんです。年に何度か「あの家具はどこの?」と聞かれます。公共施設のサードプレイス化が重視される中、どこまで予算をかけられるか、どれだけバイタリティの高い人を集められるかにもよるかもしれませんが、そうした空間づくりを少し気にかけるだけでも、工夫の余地はあると思います。

※14 1976年生まれ。2005年に選書集団「BACH(バッハ)」を設立。ショップでの選書、公共図書館や病院、動物園などさまざまな場所でのライブラリー制作に取り組む。著書に『差し出し方の教室』など。

地方都市における「交流拠点」の必要性 都市と地方の文化格差を無くすために

松本:ありがとうございます。今度は、せんとぴゅあの小篠さん、八戸ブックセンターの太田さんに質問です。「首都圏ではなく、地方都市をメインに活動されていますが、地方都市でこうした活動が求められていることをどうお考えですか?」。いかがでしょう、地方都市だから出来ることはありますか?

小篠:地方都市だから出来ることで言えば、行政の決断力が早いという点ですね。あと、プロジェクトに対する参加のハードルが低い。せんとぴゅあの建設プロセスの中でもさまざまな参加の場を設けたので、出来上がる過程で「あの、せんとぴゅあね!」という感じで、最初から町民に愛着を持たれやすかった面があると思います。
あと、私たちが地域における交流拠点のあり方などを真剣に考える理由として、大都市よりも社会的状況が厳しいことが挙げられます。たとえば、人口減少の問題はもう待ったなしの状況です。何か対策を打たないといけないという危機感の中で、一生懸命に取り組んでいるわけです。

松本:太田さん、いかがでしょうか。

太田:小篠さんがおっしゃった「町民から愛着をもたれやすい」という発言に同感します。確かに、人と施設の距離が近い。イベント参加者の顔が見えるので、「あの人が来てくれた!」「次はこういうものをやろう」という考え方ができるのがいいなと思います。あと、八戸ブックセンターが出来た背景には、先ほども申し上げた通り、都市部と地方の文化格差を無くすためというのがあります。
地方都市には都会にはないさまざまな魅力があるのですが、やはり新しい文化に触れる機会が少ないように感じます。八戸ブックセンターが開設されたきっかけのひとつとして、大型書店が存在する都市との文化格差を少なくすることが目標としてありました。インターネットが普及したことで、毎日目にする情報の数は都市部と比較してあまり違いがないかもしれませんが、その中から情報を精査し、自分で考えるために教養が必要であると思います。また、さまざまな生き方や考え方に触れることで、人生の選択肢を増やし、毎日の生活をより豊かなものにしてくれると信じています。本に触れる場所として、公共サービスとしては図書館が当たり前と考えられてきたのですが、これからは公設の書店も選択肢のひとつになるのではないでしょうか。公共サービスとして、あらゆる選択肢を増やすことが必要だと思っています。

松本:ほかにも質問をいただいておりますが、締めのコメントをいただく時間となってしまいました。地域の交流拠点を考えるアートセンターミーティングの最後に、各施設の皆さんにこれからの展望などについてコメントいただければと思います。

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渡辺:今日はお話できて楽しかったですし、勉強になりました。私たちは図書館というハコがある以上、どうしてもお客さまに来てもらうのを待ってしまう面があるので、今後は外に発信する方法を積極的に探りたいと思います。
また、今年はSCARTSと連携できたのが成果でした。たとえば今日の会場、スペースや機能を交換してみるという発想は、私たちには全くありませんでした。SCARTSに限らず、さまざまなところと連携して何かをやってみることは、色々な可能性があると実感し、ワクワクしました。ありがとうございました。

小篠:実は、事前の打ち合わせで「ところで、アートセンターとはどういうところなんですか?」と聞いた時に、「それはまだ、あまり明確になっていません…」という回答で、「それでは何を話せばいいんだろう?」と疑問に思ったのですが(笑)、今日のお話を通して見えてきたのは、これからの社会において、アートセンターというものが果たす役割は結構あるんじゃないかということ。
せんとぴゅあの経験から、私は固定的な公共建築を脱却する必要性を感じてきました。なぜなら、何十年も前の制度や条例によってそれらは建築・運営され、今の使われ方が合ってきていない現状があるのです。とはいえ、条例からひっくり返そうとすると時間が掛かる。ですから、もう少し現場に近いところから、できることから変えていってしまおうということを標榜している点で、ひょっとしたら、せんとぴゅあはアートセンターなのかもしれません。色々な仕掛けを作り、やってみる。どうなるかは分からないけれど、トライできるのが、アートセンターの役割なのではないかと言う風に、自分なりに理解していきました。

岡本:私は図書の専門ではないのですが、皆さんの話を聞いて、客観的に東川町のことを見ることができました。私が担当する「織田コレクション」と本のコラボについて考える機会にもなりました。東川町は、人とのつながりを大事にしているまちです。今日、皆さんと出会ったこともご縁ですので、また一緒に何かできたらなと思いました。

太田:来場者の皆さん、夕飯時に来ていただいて(笑)、ありがとうございました。短い時間でうまく説明できなかったところもあるのですが、お話できて楽しかったですし、こういう取り組みが増えていってほしいなと思います。居場所がある、選択肢が増えるのは、心強いことです。ぜひ、八戸にも遊びに来てください! 説明不足だったところは、私が責任を持ってご案内します(笑)。ありがとうございました。

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吉本:今日は僕も色々なことを勉強させていただきました。最後に2つコメントさせてください。

1つ目は、八戸ブックセンターの「本を書く人を支援する」取り組みについて。これは、利用者が小説家になる可能性もあるわけで、いわば“アーティスト育成”といえます。アーティストやクリエイターに、作品作りや新しいことにチャレンジする環境や場所、チャンスを与えること。これはまさに、アートセンターの重要な機能の一つなんです。そういう時に、図書の視点でいうと、今日は市民向けの視点でしたが、アーティストやクリエイターに対して提供できる情報や資料もあるはずです。

そこで、海外の事例を紹介します。
先ほど挙げた文化庁の調査で、アメリカ・ニューヨークには、The New York Public Library(ニューヨーク公共図書館)という世界最大級の図書館があり、その分館でThe New York Public Library for the Performing Arts(ニューヨーク・パブリック・ライブラリー・フォー・パフォーミング・アーツ)があります。そこでは、映像記録や楽譜、昔の舞台のセットの模型などが山のように所蔵されています。
一方、ワシントンDCにあるアメリカ議会図書館の音楽アーカイブも、昔の楽譜や音楽関係の貴重な資料を所蔵しています。
それで、著名アーティストが亡くなったら、その2つの施設が資料を奪い合うんだそうです。ですから、同じアメリカの作曲家でも、ジョン・ケージの資料はニューヨーク公共図書館、レナード・バーンスタインの資料はワシントンのアメリカ議会図書館にあるんです。

さて、札幌に目を移してみると、SIAFのようなアートイベントもやっているし、アートセンターであるSCARTSも色々な事業に取り組まれています。でも、イベントが終わったらそれでお終いなんですね。きっと、イベントを開催するプロセスにも、価値あるものがあるはずなんです。そういうものを、札幌市図書・情報館…そんなスペースや機能、予算があるか分からないのですが…アートセンターに付随する資料センターとして、アーティストやクリエイターを支援・サポートできる機能もあると、いいなぁと思いました。なかなか難しいとは思いますが、少しでもそうしたことに取り組めると、他にはない、アートセンター SCARTSと札幌市図書・情報館の「交流」に関する可能性になるのではないでしょうか。

2つ目は、ディスカッションで出てきた「交流と連携」という言葉です。実は今、交流と連携が必要なのは、役所の内部だと思うんですよね。縦割りになっていて。それを現場がつなぐようなことが起こっているんじゃないかと感じました。
先ほど示された東川町の複雑な組織図。あれが、今や全町を挙げた運営体制になっている。つまり、せんとぴゅあという施設が出来たことで、行政の縦割りを超えることが起こっているわけです。
ですから、たとえば札幌なら、SCARTSと札幌市図書・情報館が、お互いがお互いの既存の概念、「図書館ってこうだよね」「文化施設ってこうだよね」という枠を外していく中で、新しいことが生まれ、行政の枠を超え、社会情勢に応じたさまざまな活動ができるのではないかと思います。

松本:本日のアートセンターミーティングを通して、各施設の特性はありますが、「新しいことに出会う場所」という共通点が見えてきたのが、とても良かったと思います。SCARTSを含め、本日ご登壇いただいた各施設のように、多様な機能が複合的に存在することで、さまざまな知が集積され、新しいことに出会える可能性を持つ場となって、地域の交流拠点となっていくんだなという学びを得られたことを、嬉しく思います。SCARTSの今後の運営に生かしていきたいと思います。ありがとうございました。

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文:新目七恵
photo: Asako Yoshikawa

【付録】質問への回答

来場者のみなさまからいただいた質問でお答えしきれなかったいくつかのものについて、トークイベントの後、登壇者のみなさまに回答いただきました。


 
Q1.
(渡辺さんへの質問)
本を既定の番号順ではなく、司書のみなさんでグループ分けをし、ラベリングしているというお話がとても興味深かったです。そのグループ分けについて、どのくらいの頻度で行っているのかや、その場でどういう話し合いがあるのか、もう少し具体的に聞けたら嬉しいです。

A1.
渡辺:グループ分け(オリジナルテーマ)については、常に新しい情報が発信され、出版物が発行されることから、取り扱っている情報が市況環境の変化に対応できているかの観点で検討を行っています。本は随時発行されますので、どのテーマに属するとその情報を求められている方に届くのか、という検討は一冊ずつ全ての本に対して行っています。オリジナルテーマ自体の見直しと言う点では、時流に合わせて追加したり、変更したり、時には削除したりと適宜行っております。ただし、開館しながら常時大幅に変更を行うことは難しいことから、昨年、開館5年を迎えるにあたり、一度立ち止まって時流の変化に対応できているのかの観点で検討を行い、298棚あるうちの123棚のテーマをリニューアルしました。大幅な見直しについては、今後も5年に1回の頻度で定期的に行う予定です。
話し合いについてですが、テーマを新設又は変更するに至った経緯やそれを踏まえてテーマ名がその思いとズレていないか、単語選びやひらがなカタカナなどの表記についても細かく検討します。そのほか、表現の配慮や棚全体の流れ、バランスをみて協議しています。当館のオリジナルテーマの考え方や一覧はホームページでも公開していますので、よろしければそちらもご覧ください。


Q2.(太田さんへの質問)
「文化でまちづくり」に関して、スタートはどのようなきっかけで、どんな施設・取り組みからスタートしたのでしょうか。

A2.
太田:八戸市の文化政策に関する方針としては、2015年12月に「八戸市文化のまちづくりビジョン」を策定し、その推進期間を概ね5年間として事業に取り組んできました。また、国では2017年にそれまでの「文化芸術振興基本法」から「文化芸術基本法」への改正があり、地方における文化芸術の推進に関する計画策定が努力義務となったため、「文化のまちづくりビジョン」に代わって「はちのへ文化のまちづくりプラン〜八戸市文化芸術推進基本計画〜」を2022年度から策定し、進めています。「はちのへ文化のまちづくりプラン〜八戸市文化芸術推進基本計画」の詳細につきましては、八戸市のホームページ 外部リンクからご覧いただくことができます。
東川町と同じように、八戸市も中心街に文化施設が点在しており、回遊性を持たせたプランになっているのがひとつの特徴的な部分かと思います。


Q3.(太田さんへの質問)
・施設に来館する年代のバランスについて(例:10代は全体の〇%、60代は△%など)
・高齢者に足を運んでもらうのに何か工夫はあるか?もし何か良いアイデアがあればご教授ください。

A3.
太田:数値的な根拠はないのですが、平日の日中はシニアの方のご来館が多く感じます。休日になると、若い方、家族連れの方も多くいらっしゃいます。その他、三社大祭やえんぶりなど、中心街で大きなイベントがあるときや、お盆やお正月などの長期休暇期間になると観光客の方や、帰省でお立ち寄りくださる遠方のお客様が多くなります。高齢者の方にも足を運んでいただくために、ブックセンターでは各世代に合わせた様々な企画事業を行っています。


Q4.
(小篠さんへの質問)
あえて法律に規定された施設のかたちに収まらないことによるメリット・デメリットはどんな部分になるのでしょうか。

A4.
小篠:公共建築の場合、新築(場合によっては改修)した時点でその施設の運営を規定した設置条例をつくりどのような目的でその施設を利用するのかをはっきりさせることが通例になっています。しかし、建築物は長い年月において使われていくもので、特に現代のようにライフスタイルが多様になり、それに沿って社会的ニーズが変化している状況においては、当初決めた条例が合わなくなっていく場合が多く発生します。改訂に時間がかかる条例を決めるよりも、さまざまな使い方想定しつつ、その使い方を見ながら現場で利用者が納得できるルールを作りながら運営した方がさまざまなニーズに対応できます。これがメリットです。しかし、このようにするためには、しっかりした運営体制を事前に作っておく必要があります。この手間と人材、時間、予算などが課題となる場合があり、その辺りがデメリットともなる場合もあるでしょう。しかし、このように公共建築ができた後の運営の仕方をしっかり作り込んでおくことはたいへん重要なことです。


Q5.
(SCARTSへの質問)
今回、八戸とせんとぴゅあを選んだポイント、札幌の図書・情報館と共通すること・違うこと、お互いに取り入れたい取組などなどがあれば教えてください。

A5.
SCARTS:今回のアートセンターミーティングでは、「地域の交流拠点としてのあり方」を考え、分野横断的な事業の可能性を探ることを目指し、SCARTSに隣接する札幌市図書・情報館、八戸市内中心部にある複数の文化施設のうちのひとつであり「本のまち八戸」を推進する拠点として美術館との連携展示やワークショップの開催などを行っている八戸ブックセンター、「図書館でも、美術館でも、博物館でもない」と標榜し、写真や大雪山、家具文化といった東川町が誇る文化の交流拠点として機能しているせんとぴゅあに登壇いただきました。
図書・情報館や八戸ブックセンターでは「本との偶然の出会いを意識した棚づくり」で、本そのものではなくそれを手に取る人やその思考に目を向けているということ、そしてせんとぴゅあは東川町民の「丁寧な暮らし」をテーマに掲げたり、貸館を「町民の幸福度につながるか」を基準に考えるなど、どの施設も取り組みの視線の先には「人」がいるという共通点があります。SCARTSでも他団体との連携等を積極的に行っていますが、さまざまな取り組み自体が目的化して独り歩きしないよう、市民とともに交流拠点をつくり上げていくことが重要だと考えています。

登壇者プロフィール

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太田 博子

八戸ブックセンター 企画運営専門員

北海道札幌市生まれ。北海道教育大学岩見沢校卒業。卒業後は札幌市芸術文化財団などでの勤務を経て、2020年に青森県八戸市へ移住し、同年より八戸ブックセンター企画運営専門員として勤務している。


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岡本周
せんとぴゅあ 学芸員

東川町文化交流課学芸員。1987年静岡県生まれ。日本大学芸術学部卒。同大学院芸術学研究科博士前期課程修了後、静岡の北欧家具店にて勤務。2015年から2017年まで東川町の地域おこし協力隊として織田コレクションを担当、2018年同町臨時職員、2019年から正職員となり現在に至る。


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小篠 隆生
一般社団法人新渡戸遠友リビングラボ 理事長
北海道大学大学院工学研究院 非常勤講師
東京電機大学 非常勤講師、研究員

1958年生まれ。1983年北海道大学卒。2006年〜2024年北海道大学大学院工学研究院准教授を経て現職。博士(工学)。北海道東川町での連鎖的まちづくりに携わり、主な作品に「東川町立東川小学校・地域交流センター」(公共建築賞優秀賞2020)、「東川町複合交流施設せんとぴゅあ」(公共建築賞文化施設部門国土交通大臣表彰2023)など。


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(c) Jouji Suzuki

吉本 光宏
合同会社文化コモンズ研究所 代表

1958年徳島県生。社会工学研究所、ニッセイ基礎研究所等を経て、2023年6月に文化コモンズ研究所を設立(代表・研究統括)、長野県文化振興事業団理事長に就任。文化政策分野の幅広い調査研究に取り組むほか、文化施設開発、アート計画のコンサルタントとしても活躍。文化審議会委員、東京芸術文化評議会評議員、企業メセナ協議会理事などを歴任。


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渡辺 由布子
札幌市図書・情報館 司書

2011年、北海道武蔵女子短期大学教養学科卒。同年に司書課程修了。民間企業での勤務を経て、2018年札幌市中央図書館に採用。図書・情報館立ち上げ準備室に配属。棚担当はコンテンツビジネス、暮らしなど。このほかにアート担当、外部連携担当などを兼任する。


「アートセンターミーティング -地域の交流拠点を考える-」レポートイメージ画像12
撮影:リョウイチ・カワジリ

松本 桜子
札幌文化芸術交流センター SCARTS 事業係長

1983年大阪市出身。修士課程修了後、マルタ共和国を経て、青山学院大学大学院総合文化政策学研究科博士課程単位取得満期退学。サントリー文化財団鳥井フェローシップ、静岡文化芸術大学研究員、奈良県職員を経て、2017年より市民交流プラザ開設準備室にてSCARTSの立ち上げに尽力。以降、相談サービス、調査研究、助成金を担当。2024年4月より現職

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