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令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 Northern Theater Project 『LAMP LAMP LAMP』観劇レポート

目次

レポート2026年3月10日(火)

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 Northern Theater Project 『LAMP LAMP LAMP』観劇レポート

photo:yixtape

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Northern Theater Projectの『LAMP LAMP LAMP』は、北海道の冬を題材にした実験的なコンテンポラリーダンスステージ。
本作を振付した世界的なダンサー平原慎太郎さんの念願が叶い、舞台上に北海道のダンサー・音楽家たちと共創した〈北国の灯〉がともりました。

東京五輪開会式も演出した平原氏の呼びかけにメンバーが集結

photo:yixtape

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中学校の体育授業にダンスが必修化されたのは2012年度から。文部科学省のサイト(*1)には「イメージをとらえた表現や踊りを通した交流を通して仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを重視する運動」というダンスの説明があります。キーワードは「イメージ」と「コミュニケーション」。どちらも形のないものですが、他者理解に欠かせない重要な要素です。多感な中学時代におけるダンス必修化の理由がここにあります。

 

多種多様なダンスジャンルの中でも「現代的なダンス」を意味するコンテンポラリーダンスは、とりわけイメージを必要とする演目です。観客は『白鳥の湖』の物語を追うことも、ブレイクダンスのヘッドスピンに歓声を上げることもありません。ダンサーの一挙手一投足や舞台上の全てのヒントからその演出意図を探ります。そう思われていました。

 

2026219日から22日にかけて5ステージ上演された『LAMP LAMP LAMP』は、そんな“難解さ”がつきまとうコンテンポラリーダンスの解釈を広げる新たな試み。東京2020オリンピック開会式の演出も手がけた北海道出身のダンサー・振付家の平原慎太郎さんの呼びかけのもと、札幌を拠点とするメンバーたちが「Northern Theater Project」として集結。皆で挑む新作が「SCARTS文化芸術振興助成金交付事業」の令和7年度の特別助成事業の一つに採択されました。

 

採択者インタビューはこちらからご覧いただけます。

https://sapporo-community-plaza.jp/scarts_report.html?num=1336

実験施設ZOKZOKとの連携やアーティストの育成に期待

平素は国内外で活躍する平原さんですが、20258月に札幌市大通東7丁目に音楽・アート・ファッション・身体表現をベースにした実験施設ZOKZOKを仲間と共にオープン。4Fに〈フィジカルアトリエ CONTE〉を設けるなど、近年は北海道発信の異分野コラボに関心を高めています。

 

本公演には4人の音楽家、二胡奏者で歌手の凛子さん、ヒューマンビートボクサーのTATSUAKIさん、フルート奏者のLISA NAGOYAさん、そして本公演の音楽監督も務める作曲家・サウンドデザイナーの景井雅之さんが生演奏で登場。異色の組み合わせが早くから話題を呼んでいました。

ダンサーは東京2020オリンピック開会式にも出演した東海林靖志さんを中心に8人。クラシックバレエやジャズダンスなど様々なバックグラウンドを持つ顔ぶれが揃いました。

 

SCARTS採択審査でも、平原さんのアトリエを稽古場に活用したZOKZOKとの連携や多彩なメンバー構成が「札幌市の舞踊・ダンス界に一石を投じるような公演となる可能性を秘めており、今後の市内ダンスシーンの普及と振興に繋げていくことが期待される」「出演者が札幌を拠点とするダンサー、音楽家で構成されており、地域のアーティストの育成に寄与する」と高く評価されました。

心音を注ぎ込むボイパや澄んだ歌声、生演奏で世界観を醸成

photo:yixtape

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LAMP LAMP LAMP』のテーマは、「北国の灯り」です。北海道に住んでいる人々が無意識に享受している冬のあたたかさを3部構成で表現しています。

ステージの第一声は、「灯りがともる」という男性ナレーションから。頭にダンボールを被った人物が次々と現れ、ゆさゆさと体を揺らすファニーな動作で観客を魅了します。ダンボール人間が互いに触れ合い、ときに避けられるさまは面白くもあり、「笑っていいのかな」という素直な不安を誘うことも。次に「プリーズ」「ギブ」という人間関係を想起させる単語が繰り返され、与える人・与えられる人・与えられない人がステージ上を交錯します。

 

じきに東海林さん演じる主人公が群舞と離れ、どうやら自室に閉じこもった設定の様子。「ボイス」と呼ばれる犬との交流だけに安寧を求め「この部屋にいればいいんだ」と自分に言い聞かせますが、内心は葛藤も抱えています。ここで主人公の夢の中に「兄」が登場。

兄弟の間に何があったのか、明確な言及はありませんでしたが後日、平原さんにお願いしてヒントをいただいたところ、「〈兄〉は自分の意識と対話するためのモチーフにしました。ただ、これはあくまで自分のインスピレーションを刺激するための工夫です」というお返事が。無論ダンスの解釈に“正解”はなく、平原さんも「お客様に自由に感じ取ってもらえたら」とそこから生まれる対話に期待を膨らませています。

 ダンサーの熱演が続く中、客席の左前方に座した音楽チームが舞踊にあわせてボイスパーカッション(以下ボイパ)やフルート、アコーディオンなどをフル活用し、ステージの世界観を高めます。自分たちもステージに上がり、ダンサーのすぐ隣でTATSUAKIさんのボイパが心音を注ぎこむ、あるいは凛子さんが葛藤する主人公を慈しむように歌声を響かせるなどの一体感に、観客はグイグイと引き込まれていきました。

 

そして最後のナレーションも冒頭と同じ「灯りがともる」に戻り、北国の寒さ・あたたかさに、社会の孤独や自己意識の開放を重ねた舞台は終幕。舞台美術は可動式のパーテーションや積み重ねられたダンボール、舞台いっぱいに張りめぐらされたテグスなどのシンプルな素材ばかりでしたが、ダンサーの肉体を素で感じさせる空間の醸成に成功していたようです。

助成金活用で北八劇場を1週間貸切、コラボ作品に新たな意欲

photo:yixtape

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202622118時からのステージでは終演後にアフタートークも開催。北海道コンテンポラリーダンス普及委員会委員長の森嶋拓さんの進行により、実験施設ZOKZOKのメンバーである彫刻家の渡辺元佳さん、平原さん、景井さんが登壇しました。

 

自身もプレイヤーとして参加していた音楽監督の景井さん。初めに平原さんから「灯りは火種とともす人の2つが揃って初めて火がつく」というイメージを聞いてから、音の構想を膨らませていったと明かします。「二胡も歌もボイパ、フルートも全て息を吹き込む単音楽器。音楽の3人が息を合わせて“灯をともす人”になるようハーモニーを作っていきました」

ZOKZOKの渡辺さんは「ダンボールを被った人たちが出てきた冒頭から“これは何なんだ!”と掴まれました。ダンサーが自分たちで動かしていくパーテーションの使い方も“次は何が始まるのか?”と想像力をかきたてられ、何度ものめりこみそうになりながら観ていました」と鑑賞体験を振り返ります。

 

最後に平原さんは「上演が始まってからも皆でクリエーションし続け、毎回違う景色を作り上げていきました。ダンスにいろんな要素が融合したちょっと珍しいタイプの作品だったと思いますが、札幌にもっといろんなコンテンポラリーダンスの上演機会があってほしい。この作品を弾みにこれからもいろんな人とコラボしていきたいです」と抱負を語りました。

 

「札幌市の舞踊・ダンス界に一石を投じるような公演」を期待された本公演は、特別助成事業を活用し、ゲネプロも含めてジョブキタ北八劇場を1週間貸切ることで実現しました。生演奏の環境を整えるために音響技術者を東京から呼び寄せることができたことも「作品の質に直結しました」と平原さんは語ります。

本作のテーマである「灯り」には人を集め、一人一人をあたためエンパワメントして再び外へ送り出す役割もあります。鑑賞日の客席には、おそらくダンスレッスンに通っているであろう小学生らしき姉妹の姿がありました。この日、幼い心にもきっと小さな灯りがともったはず。そう信じたくなる『LAMP LAMP LAMP』でした。

執筆:佐藤 優子