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SCARTS助成金 特別助成事業の採択者に話を聞いてみた!vol.1 「 Farewell 2024『くるみ割り人形』」
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レポート2024年11月13日(水)
SCARTS助成金 特別助成事業の採択者に話を聞いてみた!vol.1 「 Farewell 2024『くるみ割り人形』」
札幌市における文化芸術活動の振興とさらなる発展を目的に、令和4年度から始まった「SCARTS助成金事業」。札幌市内で文化芸術活動を行う個人や団体を対象に、その活動費用の一部を支援する助成金交付事業です。
その令和6年度の特別助成事業に採択されたのが、バレエ公演プロジェクトの「Farewell 2024『くるみ割り人形』」。「北海道・札幌の子どもたち、ひいてはバレエ公演を観たことがない方々へ、本物の舞台芸術としてのバレエ公演を提供したい」という思いを胸に、2011年から毎年公演を実施しています。このプロジェクトを立ち上げ、公演では芸術監督を務める桝谷博子バレエスタジオ代表・桝谷博子さんとメインキャスト6人に、活動を始めたきっかけやその目指すところ、本公演の魅力や特徴を伺ってきました。
たくさんの人々にバレエの魅力を伝えたい
――このたびはお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。さっそくですが、Farewellは「北海道の子どもたち、またバレエを観たことがない人々に、広くバレエの魅力を伝えていきたい」ということを活動の目的としています。なぜそのような活動を始められたのか、きっかけを教えていただけますか。
桝谷博子さん(※以下桝谷さん):わたしは東京でしばらくバレエダンサーとして活動をしていて、文化庁の移動公演などにも出演していました。年間15か所ぐらい、色々なところを回って公演するのですが、やはり中にはバレエになじみのない土地もあるんです。子どもに限らず、大人もバレエを初めて観るみたいな土地で公演をした際、お客様が涙を流すほど喜んでくれた経験がありまして。それから色々な方の協力を得て、地方の幼稚園とか支援施設とか老人ホームでバレエ公演をしてきましたが、どこもお客様の反応がとてもいいんですね。そういう公演を重ねる中で、バレエって心の清まるものを与えられると改めて実感したことが、Farewellを始めるきっかけになりました。それで、札幌でも小さな子どもがバレエに触れられる公演ができないかと考えて、いまも舞台監督をしてくれている齋藤玲さん(札幌文化芸術劇場 hitaru)、舞台美術の尾崎要さん(株式会社アクトコール)さんに「10年付き合ってくれない?」とお願いして、2011年から始めました。
――なるほど、それで2日間の期間中、「親子で幼児も鑑賞可能な公演」「幼稚園・保育園の児童のための公演」「本格的なバレエファンのための公演」と、違う形で3公演やるのですね。もうひとつ、Farewellの大きな特徴として、北海道のバレエスタジオからオーディションでダンサーを起用している点があります。オーディションでキャストを選ぶ際には、色々とご苦労があると思うのですが……。
桝谷さん:わたしはそんなに大変ということはなくて。というのも、今回だと22のスタジオから100人近くオーディションに集まってくれたのですが、私は、なんとかして全員出したいんだけどと、わがままを言ってしまうんです。このたびの舞台では、歩くことしか出来ないかもしれない、でも舞台に立ちたいという想いを叶えることで、次にはもっと良い役で出演したいと、またいつかは重要な役ができるダンサーに育ってくれるかも知れないのです。
わたしはバレエが大好きという気持ちを、何より大切にしたいと思っています。
バレエを習っている人の中で、プロの世界で活躍できるのはほんの一握りです。だけど、バレエ愛を持っている人はとてもたくさんいて、そういう人たちにはできるだけバレエを続けてほしい。この公演がその一助になるとうれしいですね。
楽しい雰囲気で気軽にバレエを鑑賞できる
――親子で見られるバレエ公演はなかなか無いと思いますが、公演中の客席の反応はどうでしょうか?
桝谷さん:いつも真剣に見てもらえている感じはあります。終演後、ロビーでお客様をお見送りするのですが、バレエダンサーと間近に触れあえるので、皆様喜んでくれているみたい。親子鑑賞の公演では、小さい子どもが時々泣いたりすることもありますけど、わたしは気にしないでくださいって言うんです。会場から出て行かなくていいですよって。それよりも、大人でもちょっと遠慮しちゃう「ブラボー」が子どもからかかったりして、とても楽しい雰囲気ですよ。
――観客はどのような層が多いですか?
桝谷さん:出演者の関係者は多いですが、毎年楽しみにしてくれているファンの方もいます。普通のバレエ公演だと客席はバレエファンだけになるのですが、この公演は関係者含めて初めてバレエを観るという人も気軽に来れる。そこがいいところだと思っています。
――さきほど、活動の目標のひとつとしてダンサーの方が北海道、札幌でバレエを続けられること、と仰ってましたが、例えばこの公演を目指してバレエを続けているダンサーは、どれくらいいらっしゃるのでしょう?
桝谷さん:結構いますよ。社会人で働きながらバレエを続けられている方とか。この公演でも、高校生以上のダンサーが40数人出ます。
――そんなにいらっしゃるのですね。
桝谷さん:皆さん、踊りのレベルは高いです。ただ高校生以上といっても、高校生は少ないんです。受験勉強とか色々と忙しくなるので。
ダンサーから見たFarewell公演とは
――では続きまして、出演者の皆様のお話も伺いたいと思います。まず、ゲストダンサーの清水健太さん(12月5日夜/くるみ割り王子役)。東京や海外でご活躍されてますが、Farewellとはどういうつながりが?
清水さん:ある舞台で桝谷先生と一緒になって、そのあと2回目(2012年)のFarewell公演の時に「10年続けるんだけど、一緒にやらない?」とお誘いいただきました。そこからのご縁などで、もう10年以上。他にこんなに続いているプロジェクトはないですね。
――経験豊富な清水さんから見られた、Farewellの印象は?
清水さん:プロの舞台だと、それぞれが責任を持って、自分の踊りに集中します。でもこの公演はアマチュアの方、大人から子どもまでみんなそれぞれにこの公演に向けて目標を持っているんです。それは舞台をつくりあげる中ですごく重要で、レベルウンヌンじゃなくて、みんなが同じゴールを目指すことで一体感が生まれる。それが見ている方に伝わると、僕は思っています。だから、もちろん僕はプロとしてやらなければならないことはありますが、どこかでスゴイ楽しんでいる自分もいて。そんな舞台はなかなか無いので、すごい貴重な機会だと感じています。
――清水さんのパートナーを務める桝谷まい子さん(12月5日夜/金平糖の精・クララ役)にお聞きします。札幌のバレエ教室で講師をしつつ、色々な舞台にも出演されてますが、プロだけの公演と、子どもたちと一緒の公演、なにか心境に違いはありますか?
桝谷まい子さん:自分にとっては、いまできることをしっかり出すという意味で、どの舞台も同じです。でもこの舞台のときはワンチームみたいな感覚があって、演者はもちろん裏方さんも一緒になって同じ方向を見て、背中を押してくれてる感じがすごくあります。あとやっぱり出ている子どもたちが、リハーサルでも本番でも舞台袖にびっしり集まって見てくれていて、それが温かくて、すごいパワーになります。
――プロの踊りを舞台袖から見る機会なんてないでしょうから、きっと「もっとうまくなりたい」と真剣に何かを学ぼうとしてるんですね。続きまして、砂田蘭々さん(12月4日/金平糖の精)はFarewellに7年ほどご出演されているそうですが、最初に出た時と現在で、何か変わったことはありますか?
砂田さん:最初に出た時はまだ子どもで、わたしが金平糖の精の役をやる日が来るなんて、想像もしていませんでした。Farewellの前から清水さんとまい子さんにずっと憧れていて、こうやっていま間近でリハーサルを見て学べるのは、すごくうれしいです。
――年月を重ねて役が上がっていくのは、すごい励みになりますね。では砂田さんのパートナーの西岡憲吾さん(4日/くるみ割り王子役)、今回の舞台の見どころやポイントを教えていただけますか?
西岡さん:公演ごと(12月4日[水]・5日[木]の昼夜)に全員キャストが変わるので、すべてその回でしか見られない舞台となります。演出の狙いやプランを、各回の演者がどう解釈して表現するのか。ぜひ全公演見ていただいて、演者による違いを感じてもらいたいです。
――それは楽しみですね。武山のどかさん(4日/夢の中のクララ、5日昼/金平糖の精・夢の中のクララ役)は旭川市からの参加となります。Farewellに参加するきっかけは?
武山さん:旭川のスタジオの先生に、出てみないかと声を掛けられたのがきっかけです。旭川では色々なスタジオの人が集まる舞台というのがあまりなくて、札幌でそういう舞台があるならぜひ、という気持ちで参加しました。バレエスタジオの公演だと、周りは知っている人ばかりですが、ここだと色々な人たちがいて刺激になるし、交流も楽しいです。
――では平史樹さん(5日昼/くるみ割り王子役)にご質問です。これまでさまざまな舞台を経験されていますが、プロの舞台の「くるみ割り人形」と、Farewellの「くるみ割り人形」の違いはどこにあるでしょう?
平さん:やっぱり、お子様連れで鑑賞できるというのが一番の違いですね。子どもが生まれてお母さんになると、なかなかバレエを観られなくなりますので。親子で気兼ねなく観られるというのが、一番特別なところ。そして演者だけじゃなく、小さい時からバレエに触れることで子どもたちも観客として育っていきます。そういう公演を、僕は他に知らないです。
――子どもの観客が、Farewellの公演にとって大切な要素なんですね。
平さん:そうですね。子どもたちは飛んだり跳ねたりするだけで「ブラボー」と声をかけてくれます。本当に温かい場所なんです。舞台は桝谷先生やダンサーたちでつくっていくものなんですけど、この公演はお客さんも含めて、みんなでつくっている空間だと感じています。そんな公演に携われて、幸せです。
――ありがとうございます。小さい時からバレエに触れることで、きっと得られるものがありますよね。
桝谷さん:わたしのスタジオでは4歳からバレエを教えていますが、やっぱり本当にきれいなもの、リアルな美しさに対する感受性はとても豊かになると思います。
次の世代につながる公演を
――さて、今回「SCARTS助成金」の特別助成事業に採択されたわけですが、今回助成金に申請した理由を教えていただけますか?
桝谷さん:実はFarewellは、ゲストダンサー以外ほとんどボランティアでまかなっているんです。この公演で30~40回はリハーサルするのですが、それだけがんばってもらっているので、なんとかダンサーだけでも報酬をあげたいと常々思っていました。報酬ナシで逆に持ち出しがあるようなプロジェクトは、やっぱり次の世代につないで行けない。ちょっとでも報酬を支払えるように、段階を踏んでそういう公演にしていきたい。これまでは関係者の協力で成り立ってましたが、どうにかできないかと検討する中で、助成金の話を知り、申請いたしました。
――最後に読者のみなさまへメッセージを。
桝谷さん:Farewellとしては、久しぶりの札幌市教育文化会館での公演となります。わたし、お客様のリアクションがいい教育文化会館の舞台が大好きなんです。毎年少しずつ演出を変えてますので、それをお楽しみにしていただければと。皆様のご来場をお待ちしております。
<公演HP>
Farewell 2024 くるみ割り人形
https://love-ballet-hokkaido.amebaownd.com/
取材・原稿:宮川健二(亜璃西社)