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SCARTS助成金 特別助成事業の採択者に話を聞いてみた!vol.2 「 KITA8NEXT project『エンギデモナイ』」
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レポート2024年11月13日(水)
SCARTS助成金 特別助成事業の採択者に話を聞いてみた!vol.2 「 KITA8NEXT project『エンギデモナイ』」
札幌市における文化芸術活動の振興とさらなる発展を目的に、令和4年度から始まった「SCARTS助成金事業」。札幌市内で文化芸術活動を行う個人や団体を対象に、その活動費用の一部を支援する助成金交付事業です。
令和6年度の特別助成事業に採択された2件のうちの1つが、KITA8NEXT project『エンギデモナイ』。同年5月、JR札幌駅北側に開業した民間劇場・ジョブキタ北八劇場が「札幌の演劇・舞台芸術シーンを担う人材を発掘し、次世代に繋ぐ役割を劇場が背負う覚悟」のもと取り組む人材育成プロジェクト「KITA8NEXT」の第1回公演です。ジョブキタ北八劇場の芸術監督を務め、上演作品『エンギデモナイ』の脚本・演出を担当する納谷真大さん、ジョブキタ北八劇場を運営する一般財団法人田中記念劇場財団事務局長の笠島麻衣さん、そしてオーディションにより選ばれたキャストより駒津花希さん、志田杏樹さん、梅原たくとさんの3人に、取り組みの目指すところや本公演への意気込みを伺いました。
等身大の自分たちの物語『エンギデモナイ』
――このたびはお時間いただき、ありがとうございます。さっそくですが、「KITA8NEXT」は、ジョブキタ北八劇場が主催するトレーニングワークショップの参加者と、オーディションで選出した俳優を中心にキャスティングした総勢27人を3チームに分け、計15公演を行うという取り組みです。上演作品に『エンギデモナイ』を選んだ理由を教えていただけますか。
納谷真大さん(※以下納谷さん):『エンギデモナイ』というタイトルは「演技でもない」という意味を含み、つまり、演劇をやる人たちの話なのです。ワークショップで演技を学んだ人たちにとっては、等身大の自分たちの物語ともいえるわけです。と言いますのも、僕は富良野塾出身で、初めての芝居が『谷は眠っていた』という、富良野塾の記録を演じるものでした。俳優の一歩目として、自分が実際に経験していることが演劇になるというアプローチ方法はとても良かったと、今でも思っています。そうした実体験から、この作品を選びました。あと、僕が書いた作品というのも理由の一つです。
――それはどうしてでしょうか。
納谷さん:他人の脚本だと著作権の問題で内容を勝手に変更できませんが、僕が書いた作品なら自由に変えられます。今回は人を育てることに主眼を置くため、脚本をそのまま演じてもらうというより、そこにいる人たちに寄っていくような方法論を採りたかった。実際、人数や年齢の都合から、あるチームでは3人の女性が担う役割を、別のチームでは1人の女性が演じることになりました。
――なるほど。そもそも『エンギデモナイ』は、納谷さん主宰の演劇ユニット「イレブン☆ナイン」(現・ELEVEN NINES)が2005年に初演し、2013年に再演され、いずれも高評価を得た作品で、今回は11年ぶりの上演となりますね。
納谷さん:初演版を最近見返したところ、驚くほど青臭いのでドギマギしました。とはいえ、僕がつくってきた劇の中では、わりと物語がしっかり書かれている作品です。2013年の再演は札幌演劇シーズンの一環でしたが、演出は僕ではなく、僕にとって富良野塾の先輩に当たる芥川賞作家の山下澄人さんでしたので、僕が作り手となる公演は2度目という感覚です。
決め手は「一緒にものを作っていく仲間であれるかどうか」
――出演者の多くはジョブキタ北八劇場主催のトレーニングワークショップ参加者とのことですが、そのワークショップは通常の稽古とは違うのでしょうか?
納谷さん:トレーニングワークショップは、公演など人前での発表を目的としていません。実は、演劇人って演技のトレーニングをあまりしないんです。プロ野球の選手なら、シーズン前にキャンプをするじゃないですか。トレーニングワークショップもそんなイメージで、テキスト読みなど演技の基礎練習を行いました。ジョブキタ北八劇場に付属の劇団はありませんが、メンバーシップのような形でジョブキタ北八劇場に関わってくれる若い才能と出会いたいという思いから、1~3月の2カ月半、通算78時間かけて行いました。そのワークショップに参加してくれた人のほか、新規の方を含めたオーディションを8月に行い、今度は面白い作品を作ろうというのが本公演です。
――オーディションの選考ポイントは。
納谷さん:人です。一緒にものを作っていく仲間であれるかどうか。僕にとってはそれが最も大事であって、演技のうまい下手はそれほど問題ではありません。ですから、1回では決められなくて、オーディションも3日間行いました。創作ってやはり大変で、数カ月間共に過ごす中で、大なり小なり皆不安を抱いたり、嫌な思いをしたりします。それでも、ちゃんとバックアップし合えるかどうか。今回は大人数ですから、特にそれが大事になってきます。たとえるなら、凪の海を渡る遊覧船の乗組員ではなく、荒波の中を一緒に戦う人を探しているわけです。
――3チームに分けた理由は。
納谷さん:できるだけ多くの人とものを作りたいと思ったからです。安っぽい言い方かもしれませんが、ワークショップやオーディションに参加してくれた皆のことを、僕はちゃんと信頼できたし、愛情を持つことができた。ですから、できるだけ多くの人たちに「ジョブキタ北八劇場のこけら落としプログラムで舞台に立てた!」という達成感を味わってほしいと思いました。ただ、全員で1つの芝居を作るとなるとウエイトが変わってしまうので、バランスを見ながら10人前後に分けることにしたんです。
――ちなみに、演出経験豊富な納谷さんにとって、今回の演出は今までと違いますか。
納谷さん:全然違います! 僕は手取り足とりタイプの演出家で、役者への指示が多い方なのですが、今回は各チームの自主性を尊重し、「こうしたらいいのでは?」とアドバイスする形にしようと思っています。それでチームごとの自主練をお願いしました。とはいえ、やはり口を出し過ぎる時もあって…僕自身、試行錯誤の最中です。
キャストに聞く「公演のみどころ」
――そうですか。それでは、〝荒波を戦う〟仲間として選ばれた出演者のみなさまに伺います。まずは中学3年生の駒津花希さん、トレーニングワークショップに参加するきっかけを教えてください。
駒津花希さん(以下駒津さん):わたしは小さい時から人前で何かすることが好きでした。納谷さんと出会ったのは札幌市教育文化会館が主催する子ども演劇ワークショップで…納谷さん、私が「ハゲあたま」と言っても怒らなかったんです!
納谷さん:よく覚えています(笑)。当時小学3年生だった駒津さんに「おじさんなんでハゲてるの?触っていい?」って聞かれて、「いいよ」と答えたら、その場にいたこどもたちがウワ~っと集まってきて(笑)。
駒津さん:(笑)その後、姉に注意されたんですが、あまりピンとこなくて、「わたしって少しずれてるんだな」と思いました。でも、納谷さんは、そんな自分の個性を認めてくれる。「好きなようにやっていいよ」って言ってくれるから、ワークショップもすごく楽しいんです。だから、納谷さんのワークショップだけは欠かさず参加してきました。それで「演劇が好きだ」という思いはあったんですが、中学生になってのらりくらり過ごす時期もあって…。ジョブキタ北八劇場が出来て、納谷さんが講師のワークショップがあると知り、「これは絶対に参加したい!」と申し込みました。
納谷さん:今の話を補足すると、駒津さんはコロナの影響をもろにくらった世代なんです。色々なものが断ち切れになり、たとえば小学6年生の時に参加してくれた教文の子ども演劇ワークショップ「イキルニツイテ~猿ヶ島より~」も3日間で仕上げなければならなかった。ですから僕にとっては、コロナを一緒に乗り越えてきたという印象です。
――そうなのですね。駒津さんはYELLOWチームですが、来場者の方々へメッセージをお願いします。
駒津さん:まだ中学生なので周りの友達に演劇の話をしても「?」という反応なんです。それでも、少しでも興味があるなら、劇場に足を運んでくれたら嬉しいです。よければ全チーム、見に来てください!
――ありがとうございます。続いて同じYELLOWチームの志田杏樹さん、なぜワークショップに参加しようと?
志田杏樹さん(以下志田さん):私は10代から劇団ひまわりに所属していて、納谷さんのクラスを受講してきました。それで、レッスンの時に「こういうのやるから来てよ!」と声を掛けていただき、「もちろん行きます!」と二つ返事で参加を決めたんです。納谷さんと一緒にお芝居したかったので、「行かない」という選択肢は無かったです。
――納谷さんは、どういう存在ですか?
志田さん:一言でいえば、面白い人です(笑)
納谷さん:(笑)志田さんとは出会ってから6年位経ちますが、初めて会った時から、僕にとっても面白い人。ELEVEN NINESの公演(2021年「プラセボ/アレルギー」)に出演してもらったこともあります。それで、「演劇のプロを目指すのなら一緒にやろうよ。可能性は広がるんじゃない?」と私から声を掛けました。
――お二人の信頼関係が伺えます。志田さん、「私のここを見てほしい!」というアピールコメントはありますか?
志田さん:えっと…。
納谷さん:若さと明るさじゃないかな? 志田さんはYELLOWチームのヒロイン役なんです。先ほどの稽古でも「あなたが本来持ってる、その明るさが出てくれればいいよ!」と話したばかりで…僕ばかり話してすみません。はい、どうぞ。
志田さん:若さと明るさです!(一同笑)
――(笑)ありがとうございます。続いて、ELEVEN NINESの俳優としても活動される梅原たくとさんはいかがでしょうか。
梅原たくとさん(以下梅原さん):僕は、ELEVEN NINES代表である納谷が芸術監督を務めるジョブキタ北八劇場の取り組みには参加したいという思いが、まずありました。また、納谷がジョブキタ北八劇場に関わる期間はELEVEN NINESの活動はわりとストップするので、自分が活動できる場所が欲しいという切実な気持ちもあります。そして何より、新しく出来たジョブキタ北八劇場の取り組みに、第1期生として関わる機会なんて、なかなかありません。ですから、それはもうぜひ関わりたいと思いました。
納谷さん:僕は富良野塾9期生ですけれど、やっぱり1期生は羨ましいなと思います(笑)。
――梅原さんはBLUEとYELLOWの2チームに参加されますね。
梅原さん:チームごとに役どころは違って、BLUEでは結成12年目を迎えた劇団の主宰者、YELLOWではその劇団の看板俳優を演じます。もしどのチームを観劇するか悩んだら、そのどちらかにお越しください!(笑) 冗談はさておき、同じ公演で2役を演じることは、僕にとっても挑戦です。20代のほとんどを劇団員として過ごし、30代目前となった今、「次のステップへ行くぜ!」という気持ちでいます。来場者のみなさんには、「劇場が俳優を育てる」という珍しい取り組みが札幌で始まり、そうした企画に参加する若者たち、演劇を志す人たちが、これだけいるんだということを知ってもらいたいですね。
――3人とも年代も立場も異なるのですね。
納谷さん:駒津さんは10代、志田さんは20代、梅原君はまもなく30代です。ちなみに、駒津さんは学生なので、平日の昼公演には出演できません。ですからYELLOWチームは休日の3公演のみになりますが、他メンバーと同じだけ稽古に励んでいます。創作とはそういうものだと、僕も思います。こうした若い人たちが演劇を生業にできること、演劇で生きていける土壌が、このジョブキタ北八劇場に希望としてあればいいなという思いで取り組んでいます。
――3人の話から、納谷さんの存在がいかに大きいかを感じました。
納谷さん:これまで一生懸命に創作してきて良かったなと思います。とはいえ、いつも楽しい雰囲気ではなく、僕は人前で役者を怒ったり、彼女たちのことも結構叱ったりしているんです。今の時代だと厄介なことになるかもしれません。でも、僕としてはちゃんと信頼関係が出来た上での関わりです。『エンギデモナイ』は、まさにそんな物語。時代が変わっていく中で、彼らと一緒に作品を作れることは、僕にとっても面白い経験です。
北八劇場の取り組みとこれから
――改めて、ジョブキタ北八劇場が考える人材育成の在り方、目指す姿について教えてください。
納谷さん:僕があと20歳ぐらい若ければ、「僕がこれから劇場を背負います!」と思ったりするのかもしれませんが、もういい歳なので、「若者たちにいかに繋いでいけるか」が、芸術監督である自分に課せられた使命だと思っています。そのためにも、このジョブキタ北八劇場でちゃんと面白い作品を生み出し、若い才能が関わる場を設け、演劇のプロフェッショナルを送り出す役割を担っていきたい。若い才能が演劇に根付くこと、その発信の場がジョブキタ北八劇場になればと思います。そのためにも、トレーニングワークショップは毎年継続し、成果発表の場として公演ができれば。今回のメンバーが、次年度のトレーニングワークショップにも関わってくれたり、本公演を見に来てくれた方、たとえば小学生のこどもたちが「中学生になったら自分もやってみたい!」という風に繋がっていけば嬉しいです。そのためには、まず本公演のクオリティを高め、楽しい作品にしないといけません。
笠島麻衣さん(以下笠島さん):ジョブキタ北八劇場では「北八5カ年計画」を打ち出し、開業から6年後以降は、年1~2本の演劇のロングラン公演が可能となる環境を目指しています。そのためには、テクニカルスタッフを含めた演劇の人材が必要です。ひと公演ひと公演を、大事にしていきたいです。
――さて、今回「SCARTS助成金」の特別助成事業に採択されたわけですが、助成金に申請した理由を教えていただけますか。
笠島さん:SCARTSは、多くの札幌市民が知っている、開かれた文化施設です。そのSCARTSと連携することで、私たちの活動も広く知っていただけるのではないかと考えました。ジョブキタ北八劇場が5月にオープンしたばかりの今が、まさに絶好の機会。ジョブキタ北八劇場から新たな演劇作品を生み出そう、札幌の舞台芸術を盛り上げようというこの取り組みを見守っていただきたいと思いました。「SCARTS GRANT」のマークがポスターやチラシにつくことで、本公演はSCARTSに応援されているという認識を持ってもらえるのではないでしょうか。自分たちで企画する自主公演とは、また違う意味合いで受け止めていただけることを期待します。
納谷さん:ジョブキタ北八劇場は民間劇場ですから、「どういう劇場にするんだ?」と問われた時、僕が芸術監督として関わることでエンタメ系に捉えられがちです。確かに、そういう演芸場のようなにぎやかなイメージは、僕たちだけでも作っていけると思います。けれど、アーティスティックな、洗練されたイメージのあるSCARTSが賛同し、バックアップしてくれることで、「ジョブキタ北八劇場はアーティスティックな作品もちゃんと作っているんだぞ」と胸を張って言えるわけです(笑)。演劇をやっている僕も、勇気をもらえます。
――SCARTSとしても、光栄なお言葉です。
納谷さん:僕、以前にSCARTSアートコミュニケーターの講師を務めたことがあるのですが、実はそれまで、アートって少し遠い存在だったんですね。けれど、受講者の方と関わることで、演劇もアートの1つとして受け止められていくべきではないか、その方が間口は広くなるのではないかと考えが変わりました。ですから、SCARTSのバックアップをいただくことは、ジョブキタ北八劇場の未来にとっても、きっと良いものになると思います。
――札幌生まれのアコースティックギター・シンガー山木将平さんが音楽・演奏を担当するのも見どころの1つですね。
納谷さん:彼は本当に才能があり、パフォーマーとしての可能性を感じます。『エンギデモナイ』の全15公演に出演してくださいます。
――全公演ですか!すごいですね。
納谷さん:僕が熱心に口説いたんです。セリフはほとんどなく、ステージ上でオリジナル曲を生演奏してくれる予定で、現在制作中です。正直な話、出演者の演技はトレーニング段階ですが、そこに山木将平というプロのアーティストが加わることで、観客のみなさんに満足いただける作品になると確信しています。彼がステージにいるといないのでは、全く違う。僕も何度か一緒に公演していますが、公演ごとに演奏が変わるし、時には曲自体変わったこともあるんですよ! 驚くべき才能だし、演劇に向いていると思います。
――最後に、読者のみなさまへメッセージをいただければと思います。
納谷さん:この『エンギデモナイ』公演を機に、ジョブキタ北八劇場は色々なことに取り組んでいるんだ、ということを感じてもらいたいです。人材育成でいえば、ジョブキタ北八劇場では「KITA8TEEN project 中高生演劇ワークショップ」というものも行っていて、駒津さんも参加しています。こちらは、中高生たち若い才能に種を植え、水をあげていく作業といえます。一方、本公演『エンギデモナイ』は、若者たちがプロとして人前に出て、芝居を見せるという人材育成プロジェクト「KITA8NEXT」の1回目。ジョブキタ北八劇場から羽ばたく若い才能を、ぜひ見て、応援いただければと思います。
<公演HP>
KITA8NEXT #1『エンギデモナイ』
https://kita8theater.com/stage-schedule/2024engidemo/
構成/新目七恵