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お知らせ

2025年4月15日(火)

札幌文化芸術劇場 hitaru

「Creative Art Mix Vol.3 Classical Jewels DX~New World~」オンライン配信 レビュー(原田和典氏)

2025年2月9日(日)、札幌文化芸術劇場 hitaruにて盛況のうちに終了いたしました「Creative Art Mix Vol.3 Classical Jewels DX~New World~」のアーカイブ配信が5月30日(金)まで実施中です。
原田和典氏による公演レビューを公開いたします。


既成概念に揺さぶりをかける、油断厳禁の120分。新感覚パフォーミングアーツ公演の最新回が早くもオンライン配信
原田和典


 過去と現代、クラシック音楽とポピュラー音楽、東洋と西洋。一見、相反するものがゆるやかに溶け合いながら、見る者・聴く者を新たな次元へと案内する--------それが私にとっての、新感覚パフォーミングアーツ公演「hitaru creation」である。
 札幌文化芸術劇場 hitaruと地元芸術家の雄大なコラボレーションといえる同シリーズは、2020年2月開催の「Creative Opera Mix Vol.1」公演からスタート。コロナ禍をも乗り越えて、年1回のペースで観客の心を揺さぶってきた。去る2月9日に、これまでの集大成といえる「Creative Art Mix Vol.3  Classical Jewels   DX~New World~」が開催されたのも記憶に新しいところだが、その模様が追加映像も加え、早くもオンライン配信されることになったのは実に嬉しいことだ。「愛/AI」を公演テーマにして、舞台はSociety1.0<狩猟社会>、Society2.0<農業化社会>、Society3.0<工業化社会>、Society4.0<情報化社会>、Society5.0<シンギュラリティ~New World>の5シーンで描かれた。シンギュラリティとは、技術的特異点を示す。学習能力を持った人工知能が人間の及びもつかない斬新な革新をもたらすのは決して遠い先の話ではない、ということだろう。46億年前までさかのぼる過去、きたるべき未来に向けての展望を、現在を軸に描いていく。
 演唱楽曲にはこれまでの「hitaru creation」同様、クラシックの名作ばかりが選ばれている。スメタナ 連作交響詩「わが祖国」より「モルダウ」、ベートーヴェン 交響曲第9番二短調「合唱付き」より第4楽章(「歓喜の歌」)、ショパン「革命のエチュード」を筆頭に、音楽ファンならずとも一度は耳にしたことがあるであろうメロディばかりがあっと驚く編曲、鮮烈なダンス、時にドラマティックな歌声と共に展開される。編曲は「hitaru creation」になくてはならないふたり、ジャズ・サックス奏者の小野健悟とヒップホップの才人DJ TAMA a.k.a. SPC FINESTが担当。古典的なヨーロッパ音楽の世界にアメリカ下町のストリート感覚をぶちこむかのようなDJ TAMAのビート選択やフレーズのつなぎ方は実に刺激的で、ジャズをベースにしつつブルース、R&B、メタル等の要素も盛り込んだ小野健悟やバンド・メンバーたちのテクニックも冴えわたる。小野のテナー・サックスと岡本育美のアルト・サックスによるハーモニーは、ジャズや管楽器のファンにも大いに喜んでいただけることだろう。グルーヴしまくるサウンドづくりに対し、倉岡陽都美のソプラノはあくまでも正攻法で、凛とした趣を崩さない。そのコントラストもまた、小野、DJ TAMA が頭に描いていた通りであったはずだ。
 ダンス・パフォーマンスに目を転じると、郷翠(クラシックバレエ)、西野留以(ストリートダンス)、鈴木明倫(コンテンポラリーダンス)、髪立ツカサ(舞踏)、坪田みなみ(ジャズダンス)らが個性を競い、ダンススタジオマインド(舞人)、Fe. Dance studio、DANCE STUDIO LoRe のメンバーがそれをさらに盛り立てる。異なる分野の逸材が、“オール・フォー・ワン、ワン・フォー・オール“とばかりに一丸となって「からだを用いた表現の美」に徹するさまは実に美しい。縦幅も横幅も潤沢な札幌文化芸術劇場 hitaruの舞台をフルに生かしたステージを克明に捉えたカメラ・ワークも大きな見ものだ。ラストでDJ TAMA a.k.a. SPC FINESTがキャストの名前を紹介し終えたとき、画面越しの我々にもカタルシスがやってくる。
 リアルタイムで見ていては追いきれないのでは? と思える場面まで追えるのも配信の長所であるし、本編を見終えた後には、小野、DJ TAMA両氏へのインタビューコーナーが待っている。編曲におけるこだわりが、手品の種のように明かされていくのだから実にスリリングであり、私はときに答え合わせをしているような気分になると同時に「ああ、だからあそこはそうだったのか!」との発見を幾度も体験した。指先の動き一つもおろそかにしないダンサーたちの動き、音楽家たちの快演を、ぜひお家にいながらご堪能いただきたい。

原田和典
音楽ジャーナリスト。ジャズ雑誌編集長を経てソロ活動を開始、新聞・雑誌・ウェブ・レコードのライナーノーツ等に寄稿。多数の音楽プロジェクトの監修も手掛ける。著書に「コテコテ・サウンド・マシーン」「モダン・ジャズ」、「猫ジャケ」、共著に「新世紀ミュージカル映画進化論」等。毎週月曜日に「原田和典の音楽定食」(FMりべーる)放送中。

「Creative Art Mix Vol.3 Classical Jewels DX~New World~」オンライン配信
詳細・視聴はこちら→
https://www.sapporo-community-plaza.jp/event.php?num=4304