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COLUMN

コラム

オペラ公演がより楽しみになる、
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04 第4回
「演出家・粟國淳の頭の中」―その演出の着想・創作過程を探る イメージ

「演出家・粟國淳の頭の中」
―その演出の着想・創作過程を探る

hitaruオペラプロジェクト モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の演出を手掛ける粟國淳さんは、イタリア育ちの経験を活かした作品への深い洞察と舞台芸術への大きな愛が感じられる演出に定評があります。
粟國さんの演出はどのような着想・創作過程を経て生まれているのか。今回はそのもととなるアイデアイメージやノート、スケッチをお見せいただきながら、お話を伺いました。

日常の中で出合うイメージを頭にため込む

よく聞かれるのですが、机に向かって缶詰になって考え込むタイプではないですね。「この時間を演出に向き合う時間に」とあらかじめ決めておくのが苦手で…(笑)。と言いつつも、演出の依頼をいただいたときからその作品のことは、別なことを考えている間もずっと頭の中にあるんですよね。自分のこれまでの日常の中で起きたこととか、何気なく観ていた映画から印象に残っていたものが演出のヒントやアイデアになったりすることがよくあります。記憶力が良い方なんだと思います。だから、そういった日常の中で出合うイメージが自分の演出を豊かにしてくれていると感じています。演出する作品のために映画を観たり、美術館に行ったりして、参考となるイメージを集めたりするのは、自分にとっては後から始まるものですね。

「ドン・ジョヴァンニ」の演出にあたって参考にしたイメージ

▲「ドン・ジョヴァンニ」の演出にあたって参考にしたイメージ

自分が面白いと感じるところからスコアを読み込む

やっぱり大切になってくるのはスコア(楽譜)を読み込む作業です。何度も演出しているオペラももちろんですが、初めて取り組むオペラを演出する際には、特にこの作業を大切にしています。スコアに目を通すときには、明確な順序をあまり決めていなくて、順番に目を通すことは少ないんです。それはなぜかというと、初めてのオペラだとなんか体に入ってこないなあ…っていう部分ってどうしてもあるんですよね。だから僕はまずざっと通してスコアを読み込んでいく中で、ここ面白い、このリズムいいな、ここ盛り上がるな、ここ言っていること面白いなとか、そう感じるところを見つけて、その部分からスコアを読み込んでいきます。

イマイチだと感じていたところにも面白味を感じられるようになってくる

自分が面白いと感じるところを読み込んだ後は、他の部分に対して、どうしてこの部分、こんな音楽になっているんだ?って考えていくと、面白い部分との関係性が見えてきます。それを繰り返していくと、嫌だったページにたどり着くんです…(笑)。でも、面白いと感じたところから逆算しているので、ここはこういう意味だったのかって、しっくりこなかった部分にも面白味を感じられるようになってきます。そうすると作品の全体的な流れも自ずと見えてくるようになりますね。

粟國淳 インタビュー写真

イメージやアイデアの単なるパッチワークにならないように

先ほどのスコアの全体的な流れを感じるということにもつながりますけど、僕が演出している上で大切にしているのは、イメージやアイデアの単なるパッチワークにならないこと。作品と向き合っていると色んなイメージやアイデアが湧いてきます。でも僕はそういったイメージやアイデア単体での面白さより、トータルとしてこの作品は何が言いたいのか、何を伝えたいのかをお客さまに届けられるような演出にすることを心掛けています。例えば、今回は「ドン・ジョヴァンニ」という作品の伝えたいことを一番届けられると感じる、クラシカルな衣裳を採用しています。

テキストにまとめることで核となるテーマを整理する

単なるパッチワークにならないために、スコアを読み込むことで見えてきたイメージや、そのつながり、時代設定などを最終的にテキスト(言葉)として書き起こす作業もまた、とても大切だと感じています。この作品が言いたいことは何か、どんなことにフォーカスを当てるのか、自分で何かしらのポイントを作って、作品の全体としてのテーマをまとめていきます。

「ドン・ジョヴァンニ」から感じたテーマがイタリア語でまとめられた作品ノート

▲「ドン・ジョヴァンニ」から感じたテーマがイタリア語でまとめられた作品ノート

そして、そこからまたスコアに戻ったり、各シーンをどう作っていくかを考えていきます。まとめたテキストがあることで、演出家としての作品に対する立場を保つことができます。その解釈が正しいのかは自分では判断できませんが、お客さまが何かを感じて考えていただければ嬉しいですね。

スケッチを使って演出内容を考えることも

具体的な演出を考えていくとき、場合によってはスケッチを使って考えていくこともあります。思いついたときにささっと描いたようなものが多いんですが、スケッチを実際の舞台で使ったこともあります。文字や言葉だけでなくスケッチを用いることで、自分の再現したいものを周りのスタッフにもより明確に伝えられるのではと感じています。

具体的な演出を考えるときに描いたさまざまなスケッチ

▲具体的な演出を考えるときに描いたさまざまなスケッチ

エンターテイメントとしてオペラを楽しんでほしい

オペラって敷居が高くて、クラシックをちゃんと理解できていないと、音楽を勉強していないと、本当にそれが自分の趣味じゃないと、イタリア語で外国語だし分からないのではと思われがちなんですけど、大昔ではエンターテインメントだったわけで、今でいう映画と同じだと思うんです。今回hitaruで上演する「ドン・ジョヴァンニ」はコメディ要素もあり、考えさせられるところもあり、モーツァルトの音楽っていうのが、クラシックを初めて聴く人でもすごく身体に入ってきます。僕の演出もそれができるだけわかりやすく、はっきりと伝えられるようにしていますので、ぜひたくさんの人に観てもらいたいですね。