―今回、コロナ禍での公演中止をはさんで、30年ぶりの札幌公演となります。公演にかける思いや意気込みをお聞かせください。
北海道には多くの思い出があります。2022年9月の公演中止も思い出深いものとなりました。演出を変更して何とか上演できないものかと、現場に来ていない故・天児牛大と何度もメールでやりとりしたのですが、結局中止となり残念に思っていました。今回は以前にも増して多くの人の思いと共に踊ることになります。
―蟬丸さんにとって、「降りくるもののなかで-とばり」は、どのような作品でしょうか?
山海塾作品の中で唯一、吊り物の舞台美術がなく、あるのは星空を表した楕円形の床と大黒幕だけです。この夜空は親交のあった山口小夜子さん(1949~2007年、ファッションモデル・ダンスパフォーマー)の命日に北関東から見える星を忠実に写し取ったものです。帳の中で密かに思いを馳せる作品です。
―舞踏を初めて鑑賞されるお客様に向けて、その魅力を言葉で伝えるならば?
見る人の心を写す水鏡のようなもの。
―今回、公演に先立ちワークショップが行われます。講師を務める蟬丸さんから参加者に伝えたいことは?
踊るとき、形や動きは重要ですが、まず体が動く源泉に目を向け、自分を観察することから始めます。
―最後に、本公演を楽しみにしている読者に向けてメッセージをお願いいたします。
「とばり」のオリジナルではソリストは天児だけですが、2017年に天児が直接若いダンサーに振り写しをしました。2024年3月に天児は亡くなりましたが、演出は変わりません。パンデミックは過ぎ去りましたが、戦争の足音がします。このような時こそ芸術の力が必要だと思います。
蟬丸
SEMIMARU
山海塾創立メンバー。1975年の創立より現在に至るまですべての山海塾活動に参加。1985年ソロ活動を開始。劇場以外での公演が多い。1990年黒藤院を旗揚げ。公演ごとに不特定多数のメンバーを集め、作品創作を続けている。1987~96年にかけて、毎夏、場所を変えて合宿形態のダンスワークショップを行なう。1999年より、富山県黒部川流域にアトリエをかまえ、毎夏、合宿と公演を行ない、後進の指導を行なっている。総じて野外での公演が多く、その場所に応じた作品を創り、それを「磁場との対話」と呼び、空間と肉体と精神の繋がりを観察することを好む。
1960年代に土方巽が大野一雄らと共に創始したダンスの様式。調和と安定性を重視するモダン・ダンスを基盤に、内股や低い重心位置などによる前近代的な身体表現を志向する。剃髪や白塗りのスタイルは、個性を消し人間の根源的な姿を表す舞踏の世界観を反映するとも言われるが、すべての舞踏で行われるわけではない。舞踏は、作家やアングラ演劇などと交わりながら前衛芸術として発展。80年代にフランスで開催された国際演劇祭での上演をきっかけに、世界の「BUTOH」として認知度を高めた。以降、舞踏のさまざまな踊り手やカンパニーがヨーロッパやアジアで成功を収め、世界各地に広まって現在に至る。
山海塾
SANKAI JUKU
1975年に主宰天児牛大(あまがつうしお)により創設された舞踏カンパニー。1980年より海外公演を開始し、現在までに世界48カ国700都市以上で公演を行っている。1982年以降の作品はすべてパリ市立劇場(Théâtre de la Ville, Paris)との共同プロデュース。2002年『遥か彼方からの―ひびき』がローレンス・オリヴィエ賞最優秀新作作品賞を受賞。2006年『時のなかの時―とき』は朝日舞台芸術賞グランプリ及びキリンダンスサポートをダブル受賞。
天児牛大
USHIO AMAGATSU(1949-2024)
1949年横須賀市生まれ。75年に山海塾を創設。82年以降パリ市立劇場との共同プロデュースにより創作された作品は現在までに16作品を数える。89年に青山のスパイラルホールの芸術監督に就任。オペラの演出も手掛け、ペーター・エトヴェシュ作曲のオペラ『三人姉妹』(原作:チェーホフ)フランス・リヨン国立歌劇場(98年初演)、『LadySARASHINA』(原作:菅原孝標女「更級日記」)リヨン国立歌劇場(08年初演)が、フランス批評家協会最優秀賞を受賞。バニョレ国際振付コンクールの審査委員⾧(92年)、トヨタ・コレオグラフィー・アワード審査委員⾧(02~05年)。紫綬褒章受章(11年)ほか受賞歴多数。
天児牛大氏の2022年インタビュー記事掲載の情報誌はこちら
山海塾舞踏手によるワークショップ
講師:蟬丸、岩本大紀、髙瀨誠(山海塾舞踏手)
2025年3月22日[土]
●クリエイティブスタジオ
(札幌市民交流プラザ3F)
●13:00開始 12:30開場 ●定員:30名(予定)
●参加料・税込:一般 3,000円、U25 1,000円
●対象:年齢・経験不問
(小学生以下保護者同伴)
舞踏カンパニー 山海塾 30年ぶりの札幌公演
山海塾
「降りくるもののなかで
―とばり」
2025年3月23日[日]
札幌文化芸術劇場 hitaru
14:00開演〈13:15ロビー開場/13:30客席開場〉
上映時間約90分
全席指定・税込
一般4,500円、U25 3,000円
詳細はこちら
舞踏手 石井則仁氏、髙瀨誠氏のインタビュー動画を近日公開予定です。
(hitaruウェブサイトでお知らせいたします)