2024
OCT-NOV

10-11

地元のオペラ団体、教育機関、実演芸術家などの協力を得て、札幌文化芸術劇場 hitaru(ヒタル)を舞台としたオペラ作品を創造・発信する「hitaru オペラプロジェクト」。
その第2回公演として、モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」を2025年3月7日・9日に北海道ゆかりのキャストを中心に上演します。
公演に先駆け、本公演の指揮者の園田隆一郎氏に「ドン・ジョヴァンニ」の魅力や指揮者としての心構えなどを伺いました。

―音楽を始めたきっかけを教えてください。
姉の影響で6歳ごろからピアノを始めましたが、当時は友だちと一緒に外で遊ぶ方が楽しく感じてやめてしまいました。その後、学校のクラブ活動で小学4年生から吹奏楽を始め、6年生までトランペットを担当、中学~高校はトロンボーンを担当し、次第に音楽の世界に惹かれていきました。

―指揮者を目指したきっかけは何ですか?
吹奏楽部では高校2年生の先輩が指揮を務めるのが伝統で、かっこいいなと思い興味を持ちました。そして、私も高校2年生になって指揮者を担当することになり、責任を持って音楽を束ねることに面白さを感じるようになりました。楽譜を自分で吹奏楽用に編曲して、音楽の方向性を決めてまとめることが楽しかったですね。

―そこから指揮者になる道筋は?
東京藝術大学音楽学部の指揮科に入学し、志の高い先輩たちから非常に刺激を受けました。先輩の影響でオペラに興味を持ち、大学院2年のときに奨学金を活用してイタリアへ1年間留学。大学院修了のために一時帰国しましたが、再びイタリアへ渡ってジャンルイジ・ジェルメッティ氏に師事し、現場で先生の仕事のやり方を間近に見て学びました。その後、先生のアシスタントとして多くのプロダクションで研鑽を積み、2006年にシエナのキジアーナ夏季音楽週間で「トスカ」を指揮してデビューしました。

―オペラの指揮の面白さについて教えてください。
私はもともと物語のあるものが好きで、それと同じ楽しみをオペラで味わっています。物語の世界に没入し、それぞれの役柄の気持ちになって指揮をするのは楽しいものです。ジェルメッティ先生からは「感情を入れすぎてはいけない」と教えられ、確かに感情を抑えて指揮したときの方がお客さまの反応が良かったりしますが、冷めた状態でいると自分が面白くないんですね。また、マイクを使わずに声で感情表現ができる歌手の皆さんを尊敬していて、一緒に仕事できることを本当に幸せだと思っています。

―オペラの指揮にあたるアプローチや音楽づくりの準備で心掛けていることはありますか?
音楽づくりの最初の段階では、まずイタリア語の台本を読みます。楽譜を開いていきなり弾き始めるのは、地図を見ないで歩き出すようなこと。初めは楽譜を見ないで、音楽とは関係なしに台本を読むことが遠回りのようで近道だと思っています。

―モーツァルトや「ドン・ジョヴァンニ」の音楽の魅力について教えてください。
モーツァルトの音楽は、交響曲やピアノ曲などは端正で美しいというイメージがありますが、オペラの場合、特に「ドン・ジョヴァンニ」の音楽は美しさと人間の内面のグロテスクな部分が同居する素晴らしさがあります。

―今回、音楽づくりの面でこだわったポイントは?
今回の公演では、レチタティーヴォ(話すような独唱)の伴奏部分でピアノの前身であるフォルテピアノを使用します。通常はより古いチェンバロが用いられることが多いのですが、「ドン・ジョヴァンニ」は、平民が貴族と共に力をつけていた時代の作品。その時代のエネルギーを表現するため、当時最先端だった楽器を使用しようと決めました。あと、バンダ(舞台上や舞台裏で演奏する小編成のアンサンブル)にも注目してもらいたいですね。バンダは省略されてしまうことも多いのですが、今回はパーティーで音楽家がメヌエットを演奏するシーンで用います。舞台上の3つのグループに分かれたバンダから、同時に3種類の音楽が鳴るのですが、モーツァルトの前衛性を肌で感じていただけると思います。

―今回の公演で注目してもらいたいポイントは?
今回のオーディションではたくさんの方に応募いただき、選ばれた8人のキャストは本当に素晴らしい方々で、リハーサルを重ねてさらに良くなっていくと思います。また、共演する札幌交響楽団の軽やかで透明感のある演奏にも、ぜひ注目してほしいですね。

―北海道や札幌にどのような印象をお持ちですか?
偶然かもしれませんが、北海道出身の方にはモーツァルトを得意とする歌手が多く、穏やかでおおらかな方が多い印象があります。hitaruについては、これだけの響きと設備がある環境は稀有で、国内有数の劇場であると思います。

―最後に、読者や観客の方々にメッセージをお願いいたします。
映画やお芝居を観るような感覚で、気軽にオペラを楽しんでいただきたいですね。マイクを使わない歌手の声の素晴らしさと生のオーケストラの音は、オペラでこそ体験いただけるものです。「ドン・ジョヴァンニ」は、さまざまな人間模様をモーツァルトが鮮やかに描いた作品で、きっと登場人物の誰かに感情移入できる面白さがあると思います。

hitaruオペラプロジェクト
モーツァルト

「ドン・ジョヴァンニ」

指揮:園田 隆一郎
演出:粟國 淳
管弦楽:札幌交響楽団

2025年3月7日[金]/9日[日]
札幌文化芸術劇場 hitaru

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