超絶技巧の切り絵の数々が紡ぎ出す、光とレイヤーの幻想的な世界−。
この4月からSCARTSで開催される「柴田あゆみ かみがみの森」は、
国内外で高い評価を受けている切り絵アーティスト・柴田あゆみ氏の個展です。
命の営みや森羅万象を主題とした全7章のストーリー仕立てで構成される本展には、全身が包み込まれるような超大型作品から、
小瓶に切り絵を収めた細密な作品まで、約60点が展示されます。
札幌での開催にあたり、柴田氏から届いた創作のルーツやこれまでの歩み、展覧会の見どころなどについてのメッセージをご紹介します。
柴田あゆみ
神奈川県横浜市に生まれる。2007年にニューヨークに移り、National Academy School of Artにて版画とミクストメディアを習得。2015年よりパリに移り、パリ市運営のアトリエ59リボリにて2年間の展示と制作活動を行う。2018年より日本を拠点として活動。同年、イタリア・ミラノマルペンサ空港での大型作品の展示や、ドイツ国際ペーパーアートトリエンナーレにて入選。2020年には4カ月にわたる大型展示を富士川・切り絵の森美術館にて開催。同年より、継続して森山良子氏コンサートツアーの舞台美術を、すべて手づくりにて制作・監修。2022年、KITTE丸の内にて世界最大級サイズの総手切り作品“大地のうた”を展示。東京都現代美術館「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展にて、切り絵作品による「ミス・ディオールの庭」の装飾展示を手掛ける。同年12月より、個展「柴田あゆみ かみがみの森」を開催、全国を巡回中。
創作のルーツ
幼少期はキルト作家の母の影響で、裁縫や紙工作、お絵描きに没頭するような子どもでした。繊細な作品を創る母の遺伝子は確実に受け継がれ、私のルーツになっています。
進学校に進みましたが、敷かれたレールを歩むことに疑問を抱くようになり、高校卒業後は、自己を表現する手段として「想いを書いて歌う」音楽活動をスタートします。情熱をもって始めた活動でしたが、5年、6年と時が経つにつれて、次第に利益を優先する方向に。心の奥では小さな声が「そっちじゃないよ」と教えてくれていたものの、居心地のいい環境に甘えて、その声を無視していたのです。
そんなある日、交通事故に遭い、口を大きく開けてしゃべること、つまり歌うことができなくなってしまいます。この出来事を「天からのお知らせだ」と強く感じた私は、音楽活動をスッパリと引退しました。
2007年、揺らぐことのない自分の芯を得るために、人種と文化のるつぼであるニューヨークへの留学を決めました。
切り絵との出合い
誰も知り合いのいないニューヨークでは、言葉の壁もあり、うまく適応できずに試練の日々が3年ほど続きました。この頃、街の喧騒から逃れて、よく足を運んでいたのが教会でした。そこには静寂と安らぎがあり、自分を見つめ直すには最適な場所だったのです。
ある日、長い瞑想を終えて目を開けると、足元にはステンドグラスから差し込んだ七色の光が一面に広がっていました。その光景に心が震えると同時に、小学生の頃、カッターや黒い画用紙、カラーセロファンを使って、ステンドグラス風の飾りを創っていた記憶がよみがえりました。
帰り道、さっそく道具を購入し、簡単な切り絵を創ってみました。セロファンを通して差し込む光の美しさに、子どもの頃と同じ喜びを感じました。
2010年、そこから私は切り絵の制作を始めました。
マクロとミクロの世界
渡米4年目、切り絵の作品が10枚ほど完成した頃、知人の提案でアートスクールに入学しました。
もちろん切り絵の専攻はなかったので、高校時代から大好きだった歌川広重の影響もあり、版画をメインに、さまざまな素材を組み合わせて創作するミクストメディアも専攻しました。水彩画やデッサンをはじめ、あらゆるクラスを受講して創作を試みましたが、どれも自分との一致が感じられず、唯一、無条件に自分との一致、愛を感じる素材が紙でした。
時を同じくして、クラシックな絵画が主軸だったそのスクールに新たな学長が就任します。彼はベネチア出身の現代美術作家で「自分が好きなことだけをとことん追求しろ」というその理念は、私を大いに後押ししてくれました。
ある日の授業中、完成した手のひらサイズの切り絵を眺めながら、ふと「自分が想像したこの小さな世界の中に入ってみたい」という想いが浮かびました。
学長に伝えると「それなら作品を大きくすればいいじゃないか」と当たり前のように提案してくれて、そこから不可能とも思える大掛かりなプロジェクトに挑戦することに。学長のアドバイスを受けながら、丸2カ月かけて、初の大型作品が完成しました。
「切り絵の世界に入る」という願いが叶った喜びと達成感は、ミクロと同時にマクロも創造する大型作品制作へと向かうターニングポイントになりました。
日本の「かみがみ」と神話
4年間のアメリカ修学中、2年間は学長のアシスタントを務めました。さまざまな人種、年代の生徒がいるので考え方、意見もさまざま。そんな環境の中で、自分の心を確認し、表現し、伝えるということは、埋もれていた自分のアイデンティティーと出合い、自らが日本人であることを強く認識する機会となりました。
渡米前、日本の国づくりや神話についてまったく知らなかった私は、自分の国のルーツについて、うまく伝えることができませんでした。そのことをきっかけに日本の神話や国づくり、かみがみ、精神について知りたいという気持ちが強くなりました。本を読み、先輩たちからお話を伺うなかで、少しずつ自分という柱にそのエッセンスが足されていきました。
「かみがみの森」は全7章から成る、命の循環を巡る物語です。大きな作品も、小さな作品も、心を鎮めて意識を集中し、美しい未来への想いを込めて切り出しました。
また、各章には言葉が添えてあります。皆さんには作品と言葉を通して受け取ったイメージから、自由に物語を想像/創造していただければ、うれしい限りです。
北海道の皆さんへ
広大で美しい、母なる大自然を抱く北海道からは、訪れるたびにたくさんのインスピレーションを受けています。北海道の美しい自然と生態系が未来永劫保たれますように、敬意と想いを込めて展示空間を創らせていただきます。
「かみがみの森」
〈初日/13:00開場 休館日/5月22日[水]〉
一般:1,200(1,000)円、高校・大学生:1,000(800)円、中学生以下:無料
※( )内は前売料金
※会期中、「札幌市民交流プラザメンバーズ」会員証(2024年度版)ご提示で、 前売り料金にてご入場いただけます。(会員本人のみ対象)
スペシャルトークショー
出演:柴田あゆみ(本展出品作家)
大野 恵(HTBアナウンサー)
11:00-11:50 〈10:30開場〉
クリエイティブスタジオ (札幌市民交流プラザ3階)
入場:無料(要本展の観覧券) 定員:175名(予約不要・先着順・自由席)